羽と華を詠み、星は独り輝く
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ば黒麒麟のことを余さず聞こうとしたはずなのだから。
信頼してこそ、彼は何も言わずに詠に任せた。ただし裏返せば……
――どれだけ願っても、秋斗に出来る事が……何も無いってこと。
打てる手が無い。自分では何も出来ない。関与出来ない。
救いたくて仕方ないのに救えない。自らの手で願いを叶えてやりたいのに出来ない。まさしく、彼であってもお手上げなのだ。
「クク……そうかそうか」
渇いた笑い声は渇望をより深く映し出し、緩い吐息はいつもよりも軽く聞こえて、聞いている詠の方が泣きたくなった。
飄々と切り替わった彼の内心など詠には分からない。
きゅっと、袖を握った。今の彼を見るのが怖くて目を見れなくなった。
詠が抱いていたのは同情か、はたまた恋心故の同調か……きっとどちらでもあった。そのせいで、彼のことを見誤った。
「やっぱり黒麒麟は裏切りそうってわけだ。なら……やらなくちゃならねぇことが増えたな」
不敵を吐き出す。そんなモノは知ったことか、というように。
一寸、何を言っているか分からず。停止した思考が解けるまで時間が掛かった。
バッと顔を上げた先、黒い瞳が嬉しそうに見下ろしていた。
「ばーか。俺が演じてるのは黒麒麟なんだぞ? 出来ること全部やりきっても諦めてなんかやんないね。ただで消えるなんて真っ平御免だ。
それにさ、あいつは一人だけど俺にはお前さんらが付いてるし」
不敵に笑うその口が、楽しそうに語るその瞳が、信頼を伝えるその心が……昔の秋斗と同じにしか見えず。
そういえばそうだ。昔の彼も今の彼も、いつでも諦めが悪かったと思い出す。
可笑しいのか哀しいのか分からなくて、詠は困ったような笑顔を浮かべた。
「なによ……ばか。人の気も知らないで」
「ごめんな、頼りにしてる」
ニッと歯を見せて笑われてはもう何も言えない。
信頼を真っ直ぐに伝えられたらどうしようもなかった。
狂っていなかった時の彼ならきっとそんな対応をしたはずで、今の彼でも同じく。やはり秋斗であることに違いなど無いのだと、詠は堪らなくなって彼の首に手を回して抱きしめた。
「……ほんと、ばか」
怖かった。
大切なモノを失うことが、全てを彼自身の手によって壊されそうだったことが、あまりに深い絶望が、あまりに昏い狂気の渦が、あまりに悲しい……愛しい男の成れの果てが。
震える背中を撫でつけられながら、優しい声を耳にする。
「大丈夫、俺が黒麒麟を捕まえてやる。それにさ、えーりんが居れば戻れたんだ。俺だって消えてやるつもりなんかない」
自信満々にそう宣言する彼は緩く詠の頭を撫でた後に、チャリ……と胸の垂らした銀の首飾りを上げて見せて、綺麗な笑顔で笑い掛けた。
見惚
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