暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
羽と華を詠み、星は独り輝く
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、瞳には昏い色が僅かに宿るだけで。信頼と親愛を届ける黒が揺れていた。
 覚えていないのか、とは聞かない。瞳の奥を覗き込めば、もう何処にも絶望は居なかったから……ではない。

「……あんたの自惚れの結果よ。我慢なさい」
「……」

 近すぎる距離。たじろいだ彼はやはりそういう事が苦手な道化師に戻っているように見える。
 だが、詠はまだ信じない。

――混ざり合った上で嘘をついてるかどうか見抜かないと。

 信じたいのに信じてはならないなんて……此れほど酷なことがあるかと悲しくなった。
 睨み付ける瞳に悲哀が浮かぶ。それでも彼女は視線をはずさない。

「それで? 俺は何をやらかした?」
「……いつもよりもっとバカなこと」

 覚えていないのか、と聞かず。
 雛里のことで怒って戻ってきたのだろうとは思う。しかしそれにしては感情の揺れ幅が異常に少ない。
 記憶を失うことも、親しい誰かが別人のようになり替わることも、同一の存在なのに二人に分離したのかもしれないことも、詠にとっては初めての経験。
 覚えていなくとも、戻ってきただけで御の字だと無理やり納得させた。

「そうかい……」

 見つめ合ったままで、彼の目に悲哀が浮かぶ。
 しばしの沈黙。心地いいとは決して思えない居辛い空間。詠は漸く視線をずらした。
 するり、と胸倉から両手を外す。

「“黒麒麟”に会ったんだな?」

 抑揚の薄い、感情の読み取りにくい声が投げられる。
 ピタリと言い当てられた。聡い彼が予測を立てないわけがない。俯いたままで今度は視線を合わさずに、詠は答えを返した。

「……うん」

 短い返答に対して、彼は何も言わずに空を見上げていた。
 詠が詳しく話さないなら自分からは聞かないと、そういうように。

――……あんたは多分、自分でも予想してるんでしょ?

 詠の心がきつく締め付けられた。涙がじわりと滲み、零さないように唇を結んで蓋をする。
 一連の出来事で示されてしまった事柄は、誰かにとって救いの無い方程式。

 黒麒麟に戻るという証明は成った。しかしそれは余りにも、今の彼にとって残酷な証明だった。

――戻ってた時の記憶が無いんだから……戻った時に今の秋斗は消えるってことを。

 引き戻されたということは詠の望んだ結果では無かったという証明でもあり、それもまた彼にとって残酷な事実。

――今の秋斗のままじゃ雛里の願いは叶わない。今の秋斗が消えても雛里の望む平穏は訪れない。こいつの願いはどっちに転んでも叶わないってこと。

 記憶が無い別人の状態では雛里の恋は実らず。はたまた、自身が消えてまで黒麒麟を戻しても、その黒麒麟が雛里を不幸にする。
 詠の対応から、読み取ったに違いない。そうでなけれ
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