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逆さの砂時計
生の罪科 2
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に頼むから気にしなくて良いわ」

 珍しく真面目な表情だ。
 口調もわずかに硬い。

「分かりました」

 黙って付いて行った先は、教会の裏手。
 こちらに来る客は滅多にいないからか、表側と違って静かだ。
 一歩先に立つプリシラは、私に背を向けたまま、深いため息を吐いた。

「貴方、あの女の子を見て、どう思った?」
「……単純だな、と」

 また、ため息を一つ。
 何が言いたいのか分からず、首を傾げると。
 くるっと反転したプリシラが突然、私の頬を平手打ちした。
 ぱしん! と響く、乾いた音。
 痛くはないが、ちょっと驚いた。

「クロちゃん。いいえ、クロスツェル。貴方は何を見ているの? その目に何が映っているの?」

 何が、と言われても、質問の意味が解らない。
 見たまま、としか答えようがないのだが。

「ねえ。アリア信徒の役目って、何だと思う?」
「女神アリアの教えを世界に広め、苦しむすべての者を救うことです」
「模範回答ね。じゃあ、その教えはどうやって広めるの?」

 どうやって?
 教典を読み聴かせたり、実際に困ってる相手を手助けしたり……

 ……………………あ。

「やっと解った? そうよ。あの女の子は()()()()()の。貴方は迷わず手を差し出すべきだった。あの子を笑顔にすることが、私達アリア信徒の役目。傍観者に徹するなんて、論外よ」

 手を、差し出す。
 私の……この……

「! プリシラ?」
「貴方は汚れてなんかいない」

 また、頭を抱えられて、撫でられる。

「汚れているのなら、これからの行いで浄めれば良いの。貴方のその手で、救える者を救い、護れる者を護れば良いの。見つめなさい。世界を生命を、その有り様を。今この瞬間にも、貴方のその手を待ってる人達が大勢いる。気付きなさい、クロスツェル」

 私を待ってる?
 私、を?
 善を殺してきた、私の、この手を……?

「教えを広める者には、それを体現維持する義務と責任があるわ。形だけを通して終わりだなんて思わないで」

 アリア様の教えを体現維持する義務と責任。
 それは

「……いい子ね、クロちゃん。怖がらなくて良いの。私達は大丈夫だから。もう、怖がらなくて良いのよ」

 意味が、解らない。
 何かに怯えてるつもりはないのだけど。

「貴女達の言動は、おかしなものばかりですね」
「そう? 友達と遊びたいだけよ、私は」
「遊び方の度が過ぎていませんか? 深夜に幽霊ごっこをしたり、女装とか落とし穴とか……。四方八方からボールやら砂やらが飛び出してくる仕掛けなんかもあったそうですけど?」
「子供だもの」

 言い切る貴女が凄すぎる。

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