暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
生の罪科 1
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 『せんそう』がいつはじまって、いつおわったのか、ぼくは知らない。

 だれかが『しゅうけつせんげん』したってきいたけど、だからなあに?
 だれかがうでを上げて、はじまった。だれかがうでを下げて、おわった。
 なんか、おままごとみたい。
 だったら、ぼくのおかあさんも、おままごとみたいにかえしてほしい。
 「ただいま」ってわらう、ぼくのおかあさん。

 つめたい。
 うごかない。
 しゃべらない。
 わらってくれないんだ。

「おかあさん」

 くろくて長いかみは、おかあさんのじまんだったのに。
 知らないおじさんたちに引っぱられて、引っこぬかれて。
 すっごくながいけんで、ばらばらに切られちゃった。

 やめて、って言ってたのに。
 やめて、ってないてたのに。
 おじさんたちはわらいながら、おかあさんをいじめてた。
 きれいなおかあさんは。きれいだったおかあさんは。
 ぼろぼろになって、うごかなくなっちゃった。

 おかしいよ。
 おかあさん、白かったのに、赤いんだ。
 赤くてどろどろで、すっぱいにおいがする。
 いつも、どこにいても、花のにおいがしてたのに。

「……おかあさん」

 なあに? って、わらって。
 いつもみたいに、あたまをなでて、ぎゅうってして。

「あ……」

 じめんにねっころがったままの、うごかない手をもち上げようとしたら。
 ぽろって取れた。
 うでが、はんぶんになっちゃった。
 これじゃあもう、だっこしてもらえない。
 なでなでしてもらえない。

「……おかあさん……。おかあ、さん……」

 とてもりっぱなふくをきてたおじさんたちは、どこかへ行っちゃったよ。
 もう、おきても大丈夫だよ。
 いじめられないよ。
 だから、ねえ。

「おきて……おかあさん……。おかあさん、おきて……」

 はだかでねてたら、かぜひいちゃうよ。
 あたらしいおうちへ行くんでしょ?
 ねえ、おかあさん。
 おきて。
 おきて。
 おきて。

「……おかあ……さ、ん……」

 ……いたい……。
 いたいよ。
 おじさんたちに、けられて、たたかれて、おなかがすごくいたい。
 ここはさむいから、はやくかえろう?
 あたらしいおうちに、かえろう?

「……お か あ さ……ん……」

 あたまがぐらってなって、おかあさんの上にたおれちゃった。

 ……あれ?
 おとがしないね。どうして?
 おかあさんの、とくん、とくんって、おと……
 すき、だったのに……、な……



 おなかがすいた。

 おかあさんは、たくさんの虫にたべられちゃった。
 どうしていいのかわからなくて、うねうねがきもちわるくて。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ