第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十一 〜諸葛姉妹〜
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「それから、救援に来ていただいた事。徐州の者全てを代表してお礼を申し上げます」
頭を下げる陶謙に、私も答礼を返す。
「ただ、曹操殿の助力なくては、こう迅速な対応は無理にござった。礼ならば、曹操殿に申されませ」
「はい、そのつもりです。既に使者を遣わしております」
「然様でござるか。ところで、我らも赴任途中。早速ではござるが、御用の向きを伺いたい」
「……そうでしたな」
陶謙は頷き、手を払った。
既に心得ているのだろう、侍女らが一礼して部屋を出て行く。
陳登は残ったままだが、これも予てから打ち合わせているのだろう。
「ゴホッ、ゴホッ……」
「陶謙様」
慌てて、陶謙の背を擦る陳登。
「ありがとう。……申し訳ありません、お見苦しい姿で」
「いえ、お気になさらず」
「……では、本題に入りましょう。御覧の通り、私はもう、長くはないでしょう」
……随分と、唐突だな。
案の定、彩も愛里も、呆気に取られている。
「まだまだ、この徐州の為にやりたい事、為すべき事も多々ありますが。でももう、それも叶わぬ願いのようです」
寿命を悟るのは、生物としての本能。
だが、それを私に語って聞かせようと言うのか?
「……本当は、この徐州を、あなたにお任せしたかったのです。土方さん」
「陶謙殿。何の縁もない拙者に、何故そのような事を?」
「理由なら、ちゃんとあります。まず、あなたがとても『義』を重んじている事です」
「よく、ご存じですな」
「これでも、天下の趨勢は把握しておくよう、心がけているつもりですもの。そして、そのような事を仰せになる御方は、他に見当たらない事も」
「……なるほど」
「勿論、それだけが理由ではありませんよ? 武でも文でも、優れた人材を揃えている上、疲弊しきった魏郡を見事に立て直した手腕と人望。時には苛烈な事もなさるようですが、それはご自身の大事なものを守る為。違いますか?」
「拙者は武人。非情な手段も辞さぬ、それだけの事にござる」
陶謙は、柔和な笑顔を見せる。
「こんなご時世、その方が庶人にとっても良いのでしょう。あなたの慕われ方を聞く限り」
「陶謙殿。私は素性の知れぬ者にござるぞ? 他の諸侯ならばそのような事もござらぬが」
「そうでしょうか。それに、素性が確かでないとしても、それが何の問題になりましょうか。漢の高祖、あの方も出自は農民ですよ?」
聞く者が聞けば、咎められても仕方のない言だな。
死を覚悟した者の強さなのであろうか。
「ならば、お伺い致す。この徐州の近隣には、曹操殿、孫堅殿、孔融殿、袁紹殿など、名の通った諸侯がおり申す。それらの方々を頼るべきではありませぬか?」
陶謙は、静かに頭を振る。
「それは出来ませんわ」
「理由をお聞かせ願えますかな?」
「……いいで
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