狂い咲く黒の華
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不機嫌そうに語っていた自陣営の幼い将を思い出し……その途中、彼女の瞳の奥を覗いてしまった。
信頼の濃さが深すぎる色。思いやりが溢れて止まらない、止められるはずもない。
そんな目で自分を見るのは誰だ? 情報を統合すれば……一人しか居ない。
それは切り捨てた友達で……
――俺が救いたくて仕方なかった、大切な人の一人。
ズキリ……と頭が痛んだ。
ジクリ……と胸が疼いた。
随分と都合のいい時機に、ここ最近収まっていたはずの痛みが襲った。
「……秋斗殿?」
聞き返す声を耳に入れて涙が零れそうになる。吐き出しそうになった嘆息を噛み殺した。
――知ってる。あの時、官渡の終端で聞いた声だ。
同じく、また聴こえた。優しくて甘い声と、まくしたてる天邪鬼な声と、飄々と悪戯好きな声。
ずっと聞きたかった言葉と、言いたかった言葉。
――ぬかった……そうだ、趙雲は……関靖との深い関わりが……
ぐるぐると頭の中が掻き回される。久方ぶりに来た自己乖離は“生きている人物”を前にすればより大きく。
関靖の記憶が僅かに頭を掠ったからか、大好きだった四人での時間を思い出せなくとも、心の奥に閉じこもった“黒麒麟”からの想いが溢れ始める。
懺悔と後悔と悔恨と親愛と信頼と寂寥と悲哀と喪失と……狂的なまでの自責の想いが渦を巻く。
暴走した感情から泣きそうになりながらも、その少女から視線を外して空を仰いだ。
透き通るような青空に、ナニカが解け出してしまいそう。
腕を瞼に当てる。無理矢理にでも視線を合わせないようにするので精一杯だった。
気を抜けば勝手に零れようとする涙を抑え付けて、掠れた声を紡ぐ。
「クク……敵に掛ける言葉じゃあないな」
どろり、と溢れそうになる想いは救済欲求ばかり。
自分のではない感情の渦に呑まれないようひた隠す。どうにか紡いだのに自分の声とは思えない。渇きと、知っているモノにしか向けない信頼の乗った声。
芯からズレるような感覚が気持ち悪い。ぐらりと世界が揺れ動く。白、白、白が染め上げる。脳髄の片隅に至るまで、白が侵食を開始した。
ああ、ダメだと思う前に……勝手に腕が動いた。
細めた瞳で、不敵に笑って、彼女の頬に手を当てる。
頭の中が晴れていた。心地いいくらいに透き通っていた。
少し照れた仕草が愛らしい。いつもの彼女ならしないはずなのに。
どうしたよ、お前らしくないじゃないか。悪態一つつけばいい。そうすりゃいつもみたいに貶し合いをしよう。
視線が絡まれば奥に見える淡い色が読み取れて、遥か遠い記憶が思い出されて漸く気付く。
そういえばあの時も、こいつはこんな目で俺を見て来たっ
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