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相模英二幻想事件簿
File.1 「山桜想う頃に…」
T 4.9.AM11:43
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景色をそれとなく眺めていた。すると、襖の向こうから「失礼致します。」と声が掛かり、襖を開いて一人の若い男性が姿を見せた。女将が言っていた従業員だろう。
「女将よりお客様方をお連れするよう申しつかり参りました桜庭と申します。今日はこれよりお客様方を、あの櫻華山へとご案内させて頂きますので、どうか宜しくお願い致します。」
「おうかやま?」
 入ってきた桜庭という青年が言ったことに、私達三人は首を傾げた。あの山に名前があるとは聞いていなかったからだ。いや、別にあってもなくてもいいんだが…。
「女将から山の由来をお聞きにならなかったんですか?私はてっきり…。」
「すいません…。」
「いや、いいんですよ!お客様が頭を下げるようなことでは御座いませんから!」
 私が謝ると、桜庭さんは慌ててそう言った。
「私の勘違いですので…。それであの山なんですが、その昔、全体が山桜で覆われていたそうです。ですが、その美しさ故に山桜を持って行くものが後を絶たず、原木が五本まで減ったこともあったそうです。現在ではあの様に見映えも良くなっていますが、当時は寂しいものだったらしいですね。」
「へぇ、そうなんだ。でも、所有者が分かってる山のものを、よく持ってこうなんて思いましたよね。普通はそんなになる前に、どうにかすると思うんですけど…。」
 私が桜庭さんにそう言うと、亜希も藤崎も不思議そうに頷いた。問われた桜庭さんは、それに対し苦笑しながら答えてくれた。
「実は、あの櫻華山がこの旅館の持ち山になったのは、今から二百年くらい前の話です。当時はこの町の名士として知られ、かなりの財力があったそうですから。」
 はぁ…かなりの金持ちだったってわけか。ま、この旅館を見れば分かるか。外観も旅館には見えないが、内装だってとてもそうだとは思えない。もし看板が無かったら、どこかのお屋敷にしか見えないのだからな…。
 特に内装には、名匠が彫ったであろう透かし彫りの見事な欄間まであるんだから、元が資産家と言われても驚くことじゃないだろう。
「この旅館を経営している堀川家は、最盛期にはこの町全体の土地の所有権を握っていたそうです。ですが昭和に入る頃には没落の一途を辿り、この旅館の建物とあの櫻華山、そして幾つかの田畑が残されたそうです。旅館を始めたのもそれが原因で、山桜を増やそうとしたのも同時期の話だそうですよ。では、話の続きはあちらに着いてからと言うことで、皆様、支度はお済みでしょうか?」
「これといって支度の必要もありませんから、直ぐに出れます。」
 私達がそう言いながら立ち上がると、桜庭さんは笑ってこう付け足したのだった。
「皆様。今は麗らかな春の日和ですが、これが陰りますと冷えてまいります。厚手のものを一枚お持ち下さい。」
「…?」
 私達は三人して首を傾げた。見に行って
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