File.1 「山桜想う頃に…」
T 4.9.AM11:43
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に用意されていた部屋へと案内された。
部屋へと入って早々、目に豊かな風景が飛び込んできて私達を驚かせた。
そこには未だ三分程度ではあるが、美しく咲いている桜があったのだ。その後ろ、正面に見える小さな山の方には、埋め尽くさんばかりの満開の山桜が咲き誇っていたのだ。
この部屋は旅館の裏手に位置するはずだが、この光景は…寧ろ表だよな…。
「凄いだろ?あんなに山桜があるなんて、俺も最初は驚いたよ。ここの女将に聞いたんだけどさ、あの山桜、百年以上まえから少しずつ枝分けして増やしてんだってさ。」
「え?じゃ、あの山はこの旅館の?」
「そうみたいだ。あの両隣の山は違うらしいが、あの正面の山だけは、代々この旅館の土地になってるんだとさ。」
「でも…凄いわねぇ。私もあんなに山桜が咲いてるのなんて、今まで見たことないわ…。」
亜希が感嘆の溜め息を洩らしながら、開け放たれていた窓へと近付いていった。私と藤崎もそれに続き、窓際へと足を進めた。
「しかし…なんで山桜なんだ?」
私がそう呟くと藤崎が口を開いた。
「代々伝わってることがあるんだってよ。あの山に一応小さな社が建ててあって、この旅館の主が代々守ってるらしいしな。」
よく知ってるな…。時々思うが、藤崎の方が探偵向きなんじゃないか…?まぁ、ある意味探偵なのかも知れないが。
そんな藤崎も亜希と一緒に、山に咲く艶やかな山桜に見惚れていた。勿論、私も例外じゃなかったが。
しかし、この藤崎は髪も瞳も茶色で長身、顔立ちも良く、どこから見ても外国人。これで名前が京之介なんだからなぁ…。
あの山桜にその名前は合うが、どうも風体はミスマッチな気がしてならない。
「英二…そんなに俺を見詰めないでくれよ…。そんなに俺が美しいかい?」
「バカ言うな。亜希の方が美しいに決まってる。」
「あら、あなたったら正直ね。」
私達はそう言って笑った。昔と何一つ変わらない様に感じる。多分、藤崎も亜希も、そう思ってるだろう…。
そんな風に他愛ないことを考えながら風景を愛でていると、「失礼致します。」と言う女性の声が聞こえ、スッと襖が開かれた。
「よくお越し下さいました。私はこの旅館の女将で御座います。お茶とお茶請けをお持ち致しましたので、宜しければ御召し上がり下さいませ。」
姿を見せたのは、四十代中頃の女性だった。結い上げた日本髪に簪を差して、地味ではあるが、清楚な和服を着こなしていた。
目の前にあるこの風景には、こうした人物が合うな。さすがは京都。
「有り難うございます。丁度喉が渇いたところだったんですよ。あの…失礼ですが、女将さん京言葉じゃないんですね。」
「ええ。私は東京から嫁いで来ましたので、先代の女将…姑ですが、無理に使っても仕方ないと申しまして。がっかりさせてしまいまして、誠に申
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