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殺された男
殺された男
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た。彼は結局完全に飲み込まれた。それで終わりだった。
 しかしだ。彼は怪訝な顔になってだ。首を傾げさせていた。
 その彼に穏がすぐに言ってきた。
「これはね」
「これは?」
「ほら、相手は魂がどうとか言ってたじゃない」
「ああ」
 久満もその言葉は覚えていた。彼は確かにそう言っていた。
「それで思いついたのよ」
「体当たりを?」
「魂が肉体から離れてる」
 穏は自分も彼のその言葉を言ってみせた。
「それならね。魂を肉体に戻せばいいって」
「そういうことか」
「あれは久満君の魂にあたったのよ」
 そうだというのである。
「だから。肉体と合されば」
「一つに戻る」
「そう思って体当たりしてもらったけれど」
「しかしそれはいいけれどさ」
 久満は穏の話を聞きながら笑ってみせた。そのうえでこう言ってみせた。
「それでも後ろから押すなんてさ」
「だって。相手が相手だから」
「相手が相手!?」
「もう一人の久満君よね」
 ここで言うことはこれだった。
「そうよね」
「ああ、そうだけれどさ」
「じゃあ普通に動いてもわかるじゃない」
「確かに。そうだよな」
「だからね」
 穏はまた言ってきた。
「後ろから押してみたの」
「それでか」
「相手の意表を衝いてね。咄嗟だったけれど上手くいってよかったわ」
「ああ、言われてみればそうだよな」
 久満も話をここまで聞いて納得して頷いた。
「本当にな」
「いきなりなのは悪いと思ったけれど」
「いや、それはいいよ」
 笑ってそれはいいとした久満だった。そしてそのうえで穏に対してこうも言ったのだった。
「おかげで助かったしさ」
「許してくれるのね」
「うん、有り難う」
 微笑んで穏に告げた。
「本当にさ」
「こちらこそ。それでね」
「それで?」
「約束覚えてるかしら」
 今度は穏が微笑んで言ってきた。
「あの約束」
「約束って?ああ、あれか」
「そう、あれよ」
 二人はここで言い合った。
「ここで生き残れたら」
「そう、これから八十年は一緒にいようってね」
「そうだよな、じゃあ結婚するか」
「うん、しよう」
 穏はさらに言ってみせた。満面の笑顔で。
「もう一緒に住んでるしね」
「じゃあ後は籍を入れて」
「八十年よ」
 それだけだというのである。
「長いけれど頑張ろう」
「そうだな。ダイアモンド婚よりさらに二十年もか」
「大丈夫よ、何故かっていうとね」
「何故か?」
「私の家って凄い長生きの家系なの」
 まずは彼女の家のことであった。
「平均年齢百歳超えてるから」

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