殺された男
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うえで」
「闇討ちをしてくるから」
そうだというのだった。そしてだ。
穏はふと手に持っているその皮のバッグを久満に対して見せた。そうしてそのうえでこう彼に対してまた囁いたのである。その言葉は。
「これをね」
「これを?」
「見ていて」
一歩前に出てだ。利き腕の右手に持った。それを窓に映るその白いものの方に向かって思いきり投げてみせたのであった。
「ぐっ・・・・・・」
当たった音がした。それと共にくぐもった声がした。
その声を聞いてだ。穏は久満に言った。
「当たったわ」
「よし、今だな」
「ええ、私もいるから」
穏もまた警棒を出してきた。ここでも一人より二人だった。そうしてそのうえで中に飛び込んでみるとだった。そこには彼がいたのだった。
「俺か、やっぱり」
「ううん、予想通り?」
穏の声はいつもの調子に戻っていた。
「これって」
「何か緊張感が急に消えたな」
「けれど本当に予想通りだから」
だからだと返してきた穏であった。
「だから」
「まあそれはいいか」
久満も今はそれでいいとした。しかしである。
目の前のもう一人の自分を見るとだ。彼も平穏ではいられなかった。
それで自分を睨んでいる自分自身を見ながら。また穏に対して問うた。
「なあ」
「うん」
「ここからどうすればいいんだ?」
彼が問うのはこのことだった。
「一体な。どうすればいいんだ?」
「どうしようかしら」
しかしだった。穏も首を傾げてしまっていた。
「ここは」
「どうしようかしらってわからないのかよ」
「御免なさい、ちょっと」
「わからないか」
二人が言っている間にだ。もう一人の彼は体勢を立て直してだ。こう言ってきた。
「糞っ、ここは」
「ここは?」
久満が彼に問い返す。
「何だっていうだ?俺」
「そうだ、御前は俺なんだ」
彼もまたこう言ってきた。
「そして俺は御前だ」
「だから嫌に思ってるんだけれどな」
「俺をこのままにしておくと御前は死ぬんだ」
「ええと、魂が抜けてしまっている状態だから?」
穏は今の彼の言葉を聞いてこう考えた。
「つまりは」
「そうさ、そのままだと御前は死ぬんだ」
また久満に対して言ってきた。
「そして俺を殺してもだ」
「俺が死ぬのか」
「そうだ、御前は俺で俺は御前なんだ」
またこの言葉になった。
「それならな」
「殺せないっていうのかよ」
「残念だったな」
せせら笑う口調だった。まさにそうだった。
「御前はこのまま死ぬんだよ」
「俺は死ぬ」
それを言われてだ。彼の態度がさらに険しくなった
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