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殺された男
殺された男
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 そうしてだった。携帯のその着信を見るとだ。確かにそれは彼が今使っている携帯の電話番号だった。見間違えようがなかった。
「ほらな」
「間違いありませんね」
「それで今日は来ないと思ったんだが」
「けれど俺は実際に今ここにいますよ」
「それがわからない」 
 課長はいぶかしがりながら述べた。
「君が会社に来ているからな」
「実際に来てますから、幽霊じゃないですよ」
「足はあるな」
 課長は半分本気で彼の足を見た。見れば足も確かにあった。
「間違いなく」
「葬式をされた覚えはありませんから」
「どういうことなんだ、これは」
「それは俺の方が聞きたい位ですよ」
 紛れもなく本音だった。それを隠すこともしない。
「本当に」
「まあとにかくだ。君は会社に来ている」
「はい」
「これは事実だ」
 このことは課長も否定しなかった。何しろその本人が今目の前にいるからである。それでどうして間違えるかということであった。
「それならな」
「間違いありませんね」
「そうだ、間違えようがない」
 課長はこのことを認めてだ。そうしてであった。
 あらためて彼に対して言うのであった。
「では仕事を頼むが」
「ええ、御願いします」
 彼は課長の今の言葉に頷いた。そのうえで仕事を真面目にした。
 彼も今の状況がいい加減わからなくなってきた。こうしたことがとにかく何度も気付いたのだ。それで恋人である高田穏に対して相談した。
 おっとりとしているが非常に頭がいい。それで彼女に対して尋ねたのである。
「もう一人の自分が?」
「ああ、何かいるみたいな感じなんだよ」
 その魚民で飲みながら話すのだった。場所もそのカウンターである。
「おかしいよな」
「もう一人の自分なのね」
「仕事からすぐに帰ったのにここに来て飲んでるとかな」
「ここで?」
「この店のここでな」
 今座っているそのカウンターを見ながらの言葉だ。
「飲んでるって言われたこともあったし」
「ここでなの」
「それに課長からは会社に来てるのに休むって電話があったって言われたりな」
「番号は?」
「課長の携帯に俺の携帯の番号で着信が確かにあった」
 このこともありのまま話したのだった。
「実際にな」
「そうなの」
「どう考えてもおかしいよな」
 レモンチューハイをジョッキで飲みながら穏に問うた。
「これってな」
「ちょっと。普通は」
 その穏もだ。首を傾げてそれから言うのだった。
「ないわよね」
「ないよな、絶対に」
「けれど久満君は電話した覚えないのよね」
「俺の携帯からは何もなかった」
 実際にその通りだ。
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