思いと望み
[1/5]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
子供が走って行く。
短い髪を風に打ち付けながら、緋い世界を走って行く。
口を大きく開いて、しかし其処から溢れるのは言葉でも歌でもなく、叫び。意味を持たない、腹の底から際限無く喉を切り裂いて音になるだけの、悲痛な叫び。
「ああああぁぁああぁあぁぁ！！」
子供は走る。ひたすら走る。冷静に何かを考える余裕は無い。ただただ自分がよく知っている場所を目指して走る。
履き物を失い、元々くたびれていた衣服の裾を枝葉に引っ掛けては破り。其処に着いた時にはもう、全身が擦り傷と切り傷だらけで血塗れで。疲れと痛みに膝を落としても、子供の頭に浮かんだ意味を持つ単語は一つだけ。
「………て」
荒れて乱れた呼吸が整うのも待てず、ぜいぜいとひゅうひゅうの間を行ったり来たりする呼気の隙間に、思いが零れ落ちる。
「……し、て」
口元が歪む。
見上げた空を鳥の群れが飛んで行く。
いや、逃げて行く。
我が身を護れと悲鳴を上げながら逃げて行く。
それは子供の不格好さと重なる姿で、見送った子供の思いは明確さを伴って益々膨れ上がる。大粒の涙が頬の傷口を刺激して伝い、地面に落ちた瞬間
「どおしてええええぇぇえ！！！」
子供は吼えた。
どうして。どうして。どうして。
何故こうなるのか。何故こうするのか。
子供は世界に疑問を投げかける。
幼さ故の純粋な疑問に、世界は何も答えない。結果だけを押し付ける。結果が全てだと証明し続ける。
それでも子供は繰り返し繰り返し問う。
何故、どうして、何故、どうして。
世界は答えてくれないと、何処かで理解していながら。もしかしたら世界にも答えられないのかも知れないと思いながら……それでも訊かずにはいられないのだと、全身で訴え続ける。
さめざめとは泣かない。
失っても喪っても、子供は世界に向かって吼え止まない。
子供が望んで来たその場所も、勿論何も答えはしなかった。
人間世界の仕掛けが外され始めている。ベゼドラと、合流したフィレスの気配も消えた。
……泉の水を利用して動き出したと考えるのが妥当だな。掛け直すのは簡単だが、そうするには今のアリアでは使い物にならない。なにより、僅かとはいえ余計な手間と時間が増える。
結晶とクロスツェルの回収を済ませたのは良かったが、クロスツェルの死は予想以上にアリアの足を鈍らせた。本当に殺していたら面倒な事になっただろう。マリアとアリアは本当によく似ている。目元から受ける印象は正反対なんだがな。
気配を消してもベゼドラが現れる場所は判りやすい。今の内に抑えておけばまだ影響は少ないが……どうにも気に入らない。クロスツェルが抜けてフィレスが加わったにしても、動きが急に変わり過ぎている。まるで重要な何かを知ったかのように……い
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ﾍﾟｰｼﾞ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿ｻｲﾄ〜
利用規約/ﾌﾟﾗｲﾊﾞｼｰﾎﾟﾘｼｰ
利用ﾏﾆｭｱﾙ/ﾍﾙﾌﾟ/ｶﾞｲﾄﾞﾗｲﾝ
お問い合わせ
2024 肥前のﾎﾟﾁ
しおりを解除