不明瞭な結末の後に
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何をするかも、どう動くかも、彼女は全て知っていた。
一重、二重と刻が重なる。誰も声を発することのない空間に、一陣の風が吹き抜けた――
「ぐぁっ!」
――瞬間、暴漢が斜め上に吹き飛んだ。
刃は少女の肌を掠りもせず、男の腕は急な衝撃によって弾き飛ばされ、見事に脅威だけが去った。
やはり、と思う前には終わっていた。動きを目で捕えられたのは星しかおらず、街のモノ達も焔耶もポカンと呆けたままであった。
「おっと」
いつの間にか移動していた男は人質の少女のすぐ側、反動で一緒に吹き飛ばされないようにと肩に手を置いて。
目一杯に涙を溜めた少女の頭をグシグシと撫でた後、
「うん、もう泣いていい。よく頑張った。助けようとしてくれた姉ちゃんに抱きついて泣いちまえ。
さて……後は任せたぜ」
「……はっ! ま、待てっ!」
焔耶の肩をポンと叩いたその男は何も言わずに人ごみの中に溶けて行った。
振り向いた時にはもうおらず、影もカタチも見当たらない。
そのモノの跡を終えたモノは、ただ一人。
人ごみを抜けた先、人通りも少なくなった場所でその背を追う。
ただ走った。ただ駆けた。ずっと会いたくて仕方なかったから、ずっと心配でならなかったから。
余りに少なかった言の葉。余りに多かったすれ違い。その全ては遠い過去。
今、此処に居るという事実が……星の心を突き動かした。
振り向いた瞳の色は、色眼鏡に隠されて見えることは無い。
驚きだけが浮かぶ表情に、僅かばかりの嬉しさと懐かしさを感じて。
思うまま、心のままに……星は“彼”の胸に飛び込んだ。
「うぉっ」
このままでは倒れる。構うモノか。誰が見てようがもう知らない。
敵になった。知った事か。目の前に現れる方が悪いのだ。
堰を切った感情の渦が、いつでも冷静であろうとする星の心を押し流した。
こけた拍子に外れた色眼鏡、その下にあったのは、やはり黒瞳。優しさが奥に感じられる輝きに、彼女の胸が締め付けられる。
間違えるはずがない。誰有ろう、ずっと慕っていた彼のことを。
聞こうと思っていたことも、言おうと思っていた事も全て吹き飛んでしまった。
だから彼女は……いつもは浮かべない優しい笑顔で、たった一つずっと言いたかった言の葉を彼に送った。
「……おかえり……“秋斗殿”」
一寸、目を見開いた彼の困惑に星は気付かない。嬉しくて嬉しくて気付かなかった。
泣きそうになった意味も、星は気付かない。敵だから仕方ない、と思っていた。
いつもなら返してくれるはずの言の葉は、返って来なかった。
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