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乱世の確率事象改変
不明瞭な結末の後に
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が早く、近くを見回っていた警備隊の一人に声を掛け、星は孟獲達を置いて現場へと駆けた。

 近づくに連れて多くなっていく人、人、人。
 野次馬が圧倒的に多いその場所の中心には、益州に来てから知り合った将である魏延――――真名を焔耶が武器を手に、刃物を持って子供を人質にしている男と相対していた。

「ち、近づくんじゃねぇよ!」
「貴様ぁ……人質を取るとは卑怯な!」

 自分も出よう、と思った矢先……別の場所から声が上がり星は声を呑み込む。

「あー……知ってるか? 追い詰められた先で取る手段の内、人質ってのは悪手中の悪手なんだぜ」

 質素な七分丈のズボンと草鞋、如何にも民の様相をした背のひょろ高い男が一人。ゆるい足取りで人波の輪から歩み出てくる男から目が放せなくなった。
 色眼鏡を掛けているので顔の造形はよく分からない。ただ、口元に張り付けている薄ら笑いに何故か懐かしさが込み上げる。

 何処かで聞いたことのある声。街のモノにあんなモノはいただろうか。自分達の兵士の部隊長に、あんな男は居ただろうか。
 休暇中の兵士のうち誰かかもしれない、と星は思った。しかし……早鐘を打つ心臓が焦燥感を欹てる。

「誰だてめぇ!」
「おい! 危ないから近寄るな! ってお前! 聞いているのか!」

 刃を持った暴漢と焔耶から同時に声があがる。武器すら持っていない男は意にも返さずゆったりと歩みを進めた。
 一丈半程の距離を取っていた焔耶と暴漢に対して、その男は三竦みのような位置でピタリと足を止める。
 焔耶の言葉も怒気も、暴漢の言葉も視線も、全てを無視してその男は……泣き出しそうでも涙を堪えている人質の少女に向けて色眼鏡をずらしてから、綺麗に笑った。

「お前さんは強いな。もうちょっとだけ我慢してくれな。目ぇ瞑っとけばいい。大丈夫、直ぐに終わる」

 瞳を合わせた少女は、言われた通りに目を瞑った。その男を信じるというように。

 嗚呼、と星は嘆息を零した。
 身体が震えた。
 心が震えた。
 他の声は何も耳に入らなくなった。

「な、何してやがる! こいつがどうなってもいいのか!」
「何をするつもりだ! 下手なことをするな!」

 未だに喚く二人を置いてけぼりにして、その男の口元から不敵さが溢れた。

「クク、任せておけないんでね。俺の方が上手く救えるのなら俺が動けばいい、そんだけだよ」

 ゆるりと右手を頭の横に、左手を前に着き出して何かを守るように空間に添え、腰を低く落としたその男の構えを、星は知っている。
 握られた拳には何かを持っていたはずで、口元に浮かべた緩い笑みは自分にも向けられたことがあったはずで。
 見間違えるはずが無い。ずっとずっと、その男のことを見てきたのだから。

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