巻ノ十八 伊勢その二
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「御主もじゃ」
「人気はないか」
「一番見られておるのは殿じゃ」
「そうじゃな。確かにな」
見れば幸村が最もだった、尼達に見られていた。霧隠もよく見られていたが幸村はそれ以上に見られていた。
それでだ、清海と猿飛は言うのだった。
「やはり殿は違うのう」
「人を惹きつけるものがある」
「我等だけでなくおなご達の目もな」
「集める」
「そうじゃな」
「拙者の何処がよいのかわからぬが」
幸村も尼達に見られているのがわかっていた、そしてだった。
その中でだ、こう言ったのだった。
「人に好かれるのは悪い気はせぬな」
「それだけでかなりよいことです」
霧隠がその幸村に述べた。
「徳があるということです」
「拙者にか」
「徳が人に最も備わりにくいものなので」
「それがあるとじゃな」
「はい、人は違います」
それのあるなしだけで、というのだ。
「ですから殿もです」
「徳を備えていることをか」
「覚えておいて下さい」
「そしてこの徳を失ってはいかんな」
幸村はここでこうも言った。
「何があっても」
「そのこともその通りです」
霧隠は幸村にこうも言った。
「一度失った徳はおいそれとは戻りません」
「その通りじゃな」
「ですから決してです」
「わかった、ではな」
幸村は霧隠の言葉に確かな声で頷いた、そのうえで言うのだった。
「これからも行いを慎んでいこうぞ」
「己のみに走らず」
「よき教えを守って生きる」
「そうされるのがよいと思います」
霧隠も言うのだった、そしてだった。
一行は室生寺でも歓待を受けそのうえでさらに東に進んでだった。
大和を出て伊勢に入りだ、遂にだった。
伊勢神宮の敷地内に来た、その巨大と言っていい社を見てだった。
穴山は唸ってだ、一同に言った。
「諏訪も大きいがのう」
「諏訪どころではないな」
由利も驚きを隠せず言う。
「ここは」
「うむ、やはりここは別格じゃな」
「天下一の社じゃな」
「ここに祀られておるのは天照大神」
根津の言葉だ。
「皇室の祖神であるからのう」
「だからまた別格なのじゃな」
「他の社と」
「うむ、ここはさらにな」
根津は穴山と由利、信濃にいた二人に述べた。
「また違う」
「そうなのじゃな」
「ここは」
「神聖さもな」
ただ大きいだけでなく、というのだ。
「ここは違う」
「そういえば空気が違うわ」
海野は社の中の空気を吸ってから述べた。
「普通の山や社のそれよりもな」
「澄んでおるな」
「うむ、澄んでおるしな」
それにというのだ。
「他にもよいものがふんだんにあるのう」
「何かここにおるだけで清らかになる」
こう言ったのは望月だ。
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