深く染まるモノは黒と違い
[5/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
理を突けば責任転嫁となり得ることにも気付かず、彼らの心は深く沈み、罪悪感からの逃避の為に思考が停止していく。
彼がいつでも作り上げてきた、“主にすら抗えと示す狂信”ならばまだマシであろうに。
孤独な彼が飲まれまい、他者に与えまいと必死で抗っていた……“妄信”がより深く染まり始めた。
†
この戦は長く続かない。
星は始まった時からそう感じていた。今では愛紗や鈴々と分離され、誰が何処で戦っているかも分からない状況ではあるが、初めに感じた予感はずっとついて回っていた。
襲い掛かってくる少女兵士達。戦い慣れているのか居ないのか、確かに強いのだが、痛みにめっぽう弱かったのだ。
腕を切り飛ばせば劈くような悲鳴を上げ、腹を突けば泣き崩れて命を乞い、蹴り飛ばせば怯えた瞳が返ってくる。
一方的な虐殺になり兼ねない。それほど星と少女兵士達との間には実力差があった。
連携は見事。虎をも狩れるであろう俊敏な動きと力強さは兵士にとっては脅威。しかしながら星のような生粋の武人にとっては物足りない。
愛紗や鈴々と比べれば普通の兵士とそう変わらなかった。
――森を利用しての攻撃は確かに厄介だ。草木が邪魔して平地での戦と同じような成果は出せんな。
淡々と思考を巡らせる星はそろそろこの戦場にも慣れ始めていた。
如何に少女の見た目であろうと彼女らは武器を持ったのだ。言い訳を挟むことこそ愚の骨頂。
――軍としての態様を為しているのならば、目の前の敵を殺そうと向かうのならば……殺されることも当然。我らとて同じく。
戦をするとはそういうことだ。誰も死なない戦争など有り得ない。殺したくないと喚いても、不意に殺してしまう可能性さえある。
――なんと、矛盾は私にもあったか。
ふと気づいた。
自分はついこの間、彼と殺し合いをするわけではないと言ったはずなのに。
殺すつもりで向かってくる男を殺さないように戦う……してはならないことを自分はしようとしている。
部下達が命を賭け、必死になって作り上げる舞台で、彼女は自分のわがままと意地を押し通そうとしているのだ。
それでも、と思う。
――全ては……我らの願いの為に。
幽州の民と、もう二度と会えない友と、優しくて甘い主と、そして自分自身。
皆が望んでいるのはあの時の幽州で、彼を殺してしまえばもう二度と戻って来ない……星はそう思う。
この手で愛しいモノの命を奪って虚ろになった心と、夢の為に友を切り捨てた空しさに支配された感情のまま、胸を張って家に帰れようか。
否、否……断じて否。
星は愛紗や桃香のように優しくは無い。白蓮のように甘くも無い。
過去に結んだ願いの為なら
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ