深く染まるモノは黒と違い
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守りたいモノがあるから無理やり抑え付けて戦っていく。自分が無意識に涙を流していることすら気づかずに。
瞳に映るのは憎しみなどでは無かった。疑念と後悔と懺悔の感情しか無かった。
まるで賊徒のようだから疑い、悔やみ、苦しむ。
生きる為に他者を殺せ。殺して殺して……そうやって生き残れ。こんな幼子の命を喰らって生き延びる我らは……何をしているのだろう。
兵士達は自責の鎖が心に食い込んで行くのが分かった。正しいことなのか悪いことなのか分からない。いや……自分達は悪だと感じているから、だから罪悪感を感じてしまうのだ。
嗚呼、狂っている……と兵士の誰かが思った。
きっと一人や二人だけでは無い。
幾人もの兵士達が思った。
この戦いは狂っている。否……こんな戦に発展してしまう戦乱の世こそが狂っているのだ。
だから……我らが主の言い分は正しい。
本当は戦わなくてもいいはずだ。向かってくるから戦うしかないのだ。
兵士達は自己正当化しなければ耐えられない。罪悪感に耐えながら戦えるほど強くない。
悪くない、自分達は悪くない。我らが将は言の葉を投げていたのだからと自分達の言い分を押し付ける。
いつもは正義の為だ。此れも正義の為なのだ。言い聞かせるように紡いで戦うしかなかった。
将が何か言葉を投げかけてやれば良かったが……彼女達すら悲痛な面持ちで戦っている。
兵士達とはまた別の理由で彼女達も罪悪感を覚えていたがそれはまた別。
そんな表情を見せてはいけない。けれども見せずにはいられない。
無感情で戦えるほど彼女達は達観していなかった。それが劉備軍の美徳でありながら弱点でもあった。
嬉々として戦えば兵士達はその心を疑うだろう。優しい世の中を思い描いているはずの人物達が少女の虐殺を楽しんでいれば、着いて行こうなどと思うはずもない。
だからといって悲痛な表情を浮かべれば……彼女達ですら疑問に思っているのではないかと不審が芽生えてしまう。
ほんの小さな、小さな芽だ。
でもそれはいつか育つであろう絶望の萌芽。劉備軍を内側から壊しかねない、大樹と白蓮が評した桃香を絞め殺し兼ねない寄生植物の芽に等しい。
彼女達は気付くことは無かった。
兵士達も気付くことは無かった。
気付けるはずの男はもう居ない。
気付かされた少女も去ってしまった。
一人で理想と現実のハザマで狂っていった男が邂逅から予測していたその毒は、誰にも気づかれることなく現れた。
劉備軍の兵士達はもう抜け出せない。桃香が語る理想の為にと、己が言い分を他者に押し付けたのだから。
彼女の言の葉が正しい。彼女を信じればいい。彼女が言うことは正しいのだから我らの行いも正しいのだ、と。
真逆の論
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