深く染まるモノは黒と違い
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をこんな……こんな程度の相手に手古摺っているようでどうして成し遂げられよう。
反撃は直後、後列に居た一人の兵士がすっと突き出した槍から始まった。連携の動きを以って襲ってくる少女の一人に対して……兵士は隙を見つけたのだ。
なんのことは無しにただ槍を差し込んだだけで驚くほど簡単に幼い腹を突き破った。
恐れながら防御していた兵士では攻撃にまで頭が回っていなかった。少女を殺すことに躊躇いを持っていた彼らは、無意識の内に傷つけまいと戦っていたのだろう。
劉備軍に沁み込んだ甘い毒。街で手伝いをしたり、民と関わりを持ったり、そうやって過ごして来たから彼らは見た目で勝手に決めつけて、自分の命よりも少女を守ろうとしたのだ。
将である愛紗の言葉だからこそ、彼らの深層心理に蔓延る毒を掻き消した。武器を持って命を奪わんと襲ってくる相手は敵……子供だろうが赤子だろうが老人だろうがなんだろうが関係ない……そんな当たり前のことを思い出させた。
殺そうと向かってくる子供に情けをかけて自分が死ぬ?
自分の幸福を捨ててまで殺さないことを選ぶ?
自答の末に答えは出る。
嘆かわしい……自分達が負ければ自分だけでなく家族すら死ぬやもしれないのに。
ギシリ、と歯を噛む。腹に力を入れて喉から雄叫びを捻りだした。
在ったのは単純な想い。死んでたまるか、負けてたまるか。そんな人として極めて当たり前のこと。
次々に同じようなことが起こる。隙を見つけたモノから順に通常の戦闘を開始していく。彼らがずっとやってきた味方との連携で敵を打ち倒そうと、軍の動きに戻って行った。
ただし、なんともいえない感覚に悪寒が走るのも詮無きかな。
幼子の肉を切り裂く感覚が悍ましい。刃を突き入れた兵士は誰しも震えた。一寸何が起こったか分からず茫然とした少女兵士と目が合い……兵士達の表情が引き攣っていた。
泣き顔に変わって行く表情。
痛い痛いと苦しむ声。
口から血を零す姿など見るに耐えない。
でろりと抜け出た臓腑を必死で戻そうとする様など悲痛過ぎて直視できない。
槍を引き抜いた時に崩れ落ちた少女の顔が頭から離れなくなった。
お前は敵だ、お前は敵だと兵士は言い聞かす。何度見てもそれは少女でしかない。もう倒れて兵士に踏み潰されていくが……それでも顔が頭から離れない。
一つの恐怖は乗り越えた。しかしながら続いて二つ目の恐怖が降りかかる。
自分は何をしている。自分はなんでこんなことをした。これが本当にいい事なのか。これが本当に正しいのか。
初めの恐慌は乗り越えても、次に現れたのは自責という名の恐怖だった。
どうしようもない。心の強い者しか耐えれらない。劉備軍の兵士達は……些か優しすぎた。
それでも死にたくなくて、
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