暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
歯車を止めて
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だけど、仮に異教徒達が暴動を起こしたら、アリア信徒達の我慢がどこまで保つか、ちょっと心配。

 大人しい人間は暴力の標的になりやすい上、加害側は暴力に悦楽を感じる人間が多い。
 ……と言うと、少々語弊(ごへい)があるか。
 相手の痛みよりも、自分の一時の感情を優先させてしまう激情派が多い。
 とでも改めよう。

 抵抗しないならもっとやるって衝動がどこから生まれるのか知らないが、荒事に身を置くと、冷静な目で物事を見定める能力が(いちじる)しく低下するから厄介なんだよね。
 それでいて、抵抗されると余計に暴れる。

 神に仕える者の正義感が後押ししてるから引っ込みつかないし。
 つける気も無いと思うし。
 我々としても、そんな暴虐(ぼうぎゃく)を黙認するわけにはいかない。

 けど、ヘタに動けばそれこそアリア信仰側の役持ち皆殺しや一般信徒達の強制改宗で、信仰崩壊の危機に(おちい)る。
 現状で『大人しくしてなきゃダメな理由』と『全面衝突を回避する術』を与えてくれた各王室には感謝したいけど、この先予想される展開に打つべき手まで封じられちゃったら、本当に殉教者が続出しかねないよ。
 今の我々はまさに、狼の群れに囲まれた非力な兎だ。

「では満場一致で、女神アリアらしき女性の追跡調査は可能な範囲で最大限続行。我々は各々の信徒達を異教徒に近付けないよう働きかけ続ける、を、基本姿勢として可決します。万が一小競り合いが発生した際には、いかなる理由があっても、まず最初にアリア信徒を確保すること。決して異教徒には手を出させないこと。とにかく、大きな争いに発展させることだけは、断固阻止してください。以上です」

 会議は、起立式の多数決で、一応決着した。
 突然現れた女神アリアの実態を知る手掛かりが少なすぎる上に、まともな証言も無く、後ろ楯からの支援がほとんど無効化されちゃったら、もう他にどうしようもなかろうって内容だけどね。

「私達も、速やかに各々の持ち場へ戻ろうか。この分じゃあ、まだ次期達の手には余る案件がたくさん絡んできそうだし」
「ああ。昨日の今日で忙しいねぇ」
「本当に」

 枢機卿方の退室を見届けてから、私と友人も書類を片手に階段を上る。

「いっそアリア信仰のほうに直接顔を出してくれれば、こんなに慌てなくて済んだのにねえ」

 タグラハン大司教にだけ聴こえる声でささやくと。
 彼はどうかなあ? なんて言いながら、大袈裟に肩を持ち上げた。

「どっちにしても大騒ぎだったと思うな。少なくとも、教皇猊下やテネシー大司教は、ここぞとばかりに宣教活動を大々的に推奨してたんじゃない? その場合は確かに私達が布教に反対する理由はないけど、それも彼女次第
…………ああ、そういう意味か」
「うん。
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