九話:進みゆく歯車
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は非情に歯がゆい。
何とかしてあげたいのに何ともできない。
自分の無力さを噛みしめて机を叩いてしまいたい気分に陥るが患者の前で取り乱すわけにはいかない。
「でも、今のところ副作用も出てないし、もう少しこの治療を続けましょうか」
「はい。石田先生にお任せします」
「お任せって……自分のことなんだからもうちょっと真面目に取り組もうよ」
はやての任せるという受け身の言葉に少し困った顔をする石田。
病は気からというように自分で治そうという気持ちがなければ治るものも治らないのだ。
故に若干諭すように語り掛けるがはやては静かに首を横に振る。
「違います。先生を信じてるって意味で言ったんです」
「……はやてちゃん」
信じるという言葉に目を見開く石田。その言葉は医者にとっては何よりも尊く。
何よりも重い枷だった。相手は自分を信じてくれているのに結果を出せない。
純粋な優しさや想いが人を蝕むこともあるのだとどうしようもなく理解させられる。
「そうね。なら先生もはやてちゃんの期待に応えられるように頑張るわ」
「はい。期待してます」
「それじゃあ、はやてちゃんはもう出てもいいわよ。切嗣さんは少しお話があるので残ってください」
「分かりました」
自分で車椅子を操作して廊下に出ていくはやてを二人して何とも言えぬ表情で見つめてから話の本題に入る。
ここからは患者に聞かせられる話ではないのだ。
「はやてちゃんの普段の生活はどうです」
「足が動かないこと以外は僕よりも元気ですよ」
「そうなんですよね……。お辛いと思いますが私達も全力を尽くしています」
「はい、それは傍から見てもよく分かっています」
麻痺で足が動かないにもかかわらず元気な姿を見せるはやて。
だが、元気であればあるほどにそれが失われる時が恐ろしい。
石田はそのときを見届けることになりかねない切嗣の心中を思って沈痛な面持ちを浮かべる。
しかし、切嗣は無表情のまま頷くだけである。
「今は麻痺の進行を食い止める方向で検討しています。これから入院を含めた辛い治療になっていくと思います。切嗣さんが支えになってあげてください」
「はい。分かっています。本人とも相談しておきます」
石田に対して抑揚のない返事をして診察室から出ていく。
その姿にいつもと違うと思うが無理に感情を抑えようとしているのだろうと思い、考えを止める。
結局切嗣の表情ははやてに話しかけるまで無表情のままであった。
はやての診察日から数日が流れる。
その間に騎士達はお世辞にも速いとは言えないが確実にページを埋めていく。
管理局の方も騎士達を捕えるには至らないが犠牲を無駄にしないために徐々に追い詰めていく。
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