第五章
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「遠慮はいらんぞ」
「うん、けれどね」
「そうじゃな」
平六と与平は仙人の言葉を受けてだった、まずは二人で顔を見合わせて話した。
「おら達今は特にね」
「腹は減っておらんしな」
「ごんは木の実とか食べないし」
「それじゃあな」
「そうか、犬は食わぬからか」
二人が連れているその犬はというのだ。
「だからか」
「うん、皆で一緒に食べないと」
「よくないですから」
「ごんがお腹を空かせるから」
「それはどうも」
「そうか、ならいい」
仙人は二人の犬への思いやりを受けて微笑んで言った。
「それでは気をつけて帰るのじゃ」
「うん、じゃあね」
「そうさせてもらいます」
「何時でも来ていいぞ」
仙人は二人と一匹にこうも言った。
「気軽にな」
「気軽になんだ」
「仙人は一人でいるものじゃがいつも一人だとな」
少し苦笑いになってだ、仙人は兵六に語った。
「寂しい時もあるからな」
「だからなんだ」
「御主達が気が向けば来てくれ」
「この山の頂上にだね」
「うむ、何時でもな」
こう言ってだ、兵六達に茸や木の実をたっぷりと渡してだった。仙人は彼等を送った。兵六は山を下りながら祖父に言った。
「仙人様はいつも一人なんだね」
「ああ、そしてな」
「そのことが寂しい時もあるんだね」
「そりゃ千人もいないからな」
仙人でもだ。
「寂しくなるのも当然か」
「そういうものなんだね」
「仙人も一人、そしていつも一人だとな」
「寂しくなったりもするんだね」
「そういうことだな」
「わん」
ここでごんも声をあげた、そうした話の後でだ。与平わ孫と犬に笑ってこうも言った。
「よし、家に戻ったらな」
「今日は木の実と茸でだね」
「ご馳走だ、茸は鍋や飯に入れてな」
与平は上機嫌で孫に話した。孫の背中にこれ以上はないまでに詰められている様々な茸や木の実を観ながら。
「木の実はそのまま食って食いきれぬものは干してな」
「後で食べるんだね」
「そうするぞ、いいな」
「うん、わかったよ」
兵六も笑顔で応える、二人と一匹は和気藹々として山を下って家に戻った。そうして家でも皆で仲良く楽しく茸や木の実を食った。一人だけでそうせずに。
一人でも 完
2015・9・19
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