第五章
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「その時じゃないかい?」
「そう来るかい」
「ああ、君も恋愛をしたいのならだ」
「見ているだけじゃなくてか」
「告白をしたらどうだい?」
伊達にだ、笑って言った言葉だ。
「そろそろな」
「そうだね、見ているだけでも楽しいけれど」
「それで済む話じゃないね」
「恋愛はね、小説でもそうだね」
「そう、源氏物語を見るんだ」
ここでだ、友人は伊達が愛読している武者小路実篤でなくだ。この古典の名前を出した。日本に古くからある恋愛小説だ。
「光源氏は見ているだけで終わっているかい?」
「それは絶対にないね」
「彼はそこから動くね」
「だから僕もだね」
「その時が来たんじゃないかい?」
告白のその時がというのだ。
「まさにね」
「それじゃあだね」
「そう、君の覚悟が決まれば」
「告白だね」
「そうしたらいいよ」
「そうだね」
伊達もだ、詰襟の学生服姿で腕を組んで言った。
「それじゃあそろそろだね」
「告白で緊張したりしないね」
「いや、それはね」
「ないんだね」
「自分ではそれはないと思っているよ」
「それじゃあね」
それならと言ってだ。そしてだった。
鰻の蒲焼と鰻丼、それに肝の吸いものと酒が来たところでだ。伊達は友人に対して微笑んではっきりと言った。
「明日にでもね」
「告白するんだね」
「告白はしたことがないけれど」
それでもというのだ。
「一気に行くよ」
「それも恋愛の楽しみの一つと思って」
「明日日本橋に行った時にね」
「今日じゃないんだね」
「今日でもいいけれどね」
それでもというのだ、箸を手に取りつつ。
「行ってすぐも風情がないし」
「明日にするんだね」
「そうしよう、ではまずはね」
「この鰻をだね」
「楽しむよ」
こう言ってだ、伊達は今は友人と共に鰻、背中から捌いたそれを楽しんだ。そしてこの日も日本橋に行って彼女を見てだった。
下宿に帰って文を書いた、その書くことも小説の主人公の様だと楽しんでいた。その文を書き終えて寝てだった。
彼は午後にその文を持って日本橋に向かった、彼女が来ればその文を差し出して告白するつもりだったのだ。
決まりの時間に行ってそして待っているとだ、暫くしてだった。
その彼女が来た、和服とパラソルといういつもの姿で。
その姿で前から来た、その彼女を見てだった。
彼は足を進めた、黒い革靴は油を塗って光っている。朝行く時にそうしたのだ。
そうして行こうとしたが。
その彼の横を少し年配の着物の男と二人の小さな男の子が通り過ぎた、そして。
彼が文を渡そうとした美女のところに来てだ、笑って声をかけた。
「お母様」
「あら、今日は迎えに来てくれたのね」
「この子達がどうしてもと言うからな」
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