第三章
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「恋愛をだね」
「そちらも楽しみたい」
「そうしたいんだね」
「僕の家は代々見合いなんだ」
伊達は残念そうに述べた。
「それで恋愛も何もね」
「なくてだね」
「結婚してだね」
「そしてそのうえでだね」
「子供を作るだけなんだ」
「そんな感じだよ、代々ね」
それこそという口調での言葉だった。
「だから面白くないから」
「それでだね」
「恋愛もだね」
「東京に来たからには楽しみたい」
「恋愛小説みたいに」
「ここには奇麗な娘が沢山いるしね」
だからだというのだった。
「誰かとそうしたものを楽しみたいね」
「やれやれ、君は贅沢者だよ」
「実家は大地主でお父上は政治家で」
「仕送りもあって優雅に暮らしている」
「そして遊んでいるのに」
「さらに恋愛もとはね」
「自分でもそう思うよ、けれどね」
自分でもわかっているがとだ、伊達は苦笑いをして述べた。
「人の欲には限りがないね」
「だから恋愛もだね」
「そちらもだね」
「楽しみたいんだね」
「そちらも」
「そうだよ、さて誰と楽しめるかな」
まだ相手にも会っていないがだ、伊達は自分が恋愛をした時のこと武者小路実篤の小説の主人公達の様になったことを想像しながら楽しんでいた。そのうえで東京のあちこちで様々な楽しみを味わっていたが。
ある午後のことだ、蕎麦を食べた後歌舞伎を観てこれから珈琲を飲みに喫茶店に行こうとしたその時にだった。
日本橋のところで擦れ違った、それは。
黒髪を奇麗に整え赤地に桃、そして白の梅や桜が飾られた振袖と紅地の見事な帯を締めてだった。白地に水色のパラソルを持っている女性だった。
年齢は二十三位か、目は切れ長で睫毛が長く眉は黒い見事なカーブを描いている。顔は白く唇は小さめで紅色だ。やや面長の顔で鼻も程よい高さで耳が黒髪から出ている。
その女性を見てだ、思わずだった。
彼は見蕩れた、そして次の日にだった。
彼は友人達にだ、大学で話した。
「昨日日本橋で素晴らしい美人に会ったよ」
「へえ、武者小路実篤の小説に出て来るみたいな」
「そんな恋愛に出会えたのかい?」
「君が望んでいたね」
「そうした出会いがあったんだね」
「ひょっとしたらね、いや和服でパラソルをかざしていてね」
うっとりとした口調でだ、伊達は友人達に話した。
「凄い美人だったよ」
「もう格好は覚えたんだね」
「それも完全に」
「ハイカラだったからね」
和服にパラソルというその格好がだ。
「もう今一番いいね」
「その格好でだね」
「しかも凄い美人だった」
「だからだね」
「もう目に焼きついて離れないんだね」
「まさにだよ、服装も顔も覚えたよ」
そのどちらもというのだ。
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