第一章
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パラソル
東京のある大学に通う伊達辰之助は親の仕送りが多いことをいいことに大学で学びつつ東京の街を歩き回っていた。
そしてだ、よく学友達にこう言っていた。
「この街程いい場所はないよ」
「東京が一番」
「都だからこそかい」
「そうだよ、僕が暮らしていたね」
彼は洋食屋にもよく出入りしていた、実際今も洋食屋で学友達と話している。洒落た洋風のその店の中でだ。
「秋田にはとてもだよ」
「こうした店もなく」
「洋食自体もだね」
「ないんだね」
「そうだよ、そんなものはね」
笑って言うのだった。
「とてもないよ」
「君の家は大地主らしいじゃないか」
「秋田の」
学友達は彼の家のことを話した。
「お父上は政治家だね」
「それも華族院の」
「そうだよ、しかしね」
それでもというのだ。
「秋田にはとてもね」
「こうしたものはない」
「洋食は」
「洋食どころか」
ハンバーグやカレーライス、彼等が注文したその洋食を見つつの言葉だ。
「他のものだってだよ」
「ないんだね」
「それも一切」
「珈琲もなければ」
彼が東京に来てその美味さに感激したものだ。
「他のものもないんだ」
「東京では普通のものがだね」
「秋田には一切ない」
「君が高校まで過ごしていた場所は」
「酒の葡萄酒やウイスキィなんてものはね」
とてもという口調での言葉だった。
「ない、石の建物もないしギャマンなんて殆どない」
「洋館もだね」
「そして洋服を着ている人も殆どいない」
「そうさ、僕達が今着ている服だって」
学生服だ、黒の。その学生服の上からマントを羽織っている。
「とてもない、牛鍋もないし蕎麦だって味が違う」
「もう食べものもお酒も服も建てものも」
「何もかもが違うんだね」
「そうさ、けれどこの東京にはそういったものも全てあって」
そして、というのだ。
「歌舞伎も風呂屋も落語も遊郭もある」
「秋田にはそういったものもかい」
「全部ないんだね」
「旅役者は来るさ、けれど僕の屋敷にいい風呂があっても」
「それでもだね」
「風呂屋はないんだね」
「あんないいものはないよ、遊郭は温泉町にはあっても」
それでもとだ、伊達は学友達に饒舌に話していった。
「僕の屋敷の周りにはなかったね」
「例え大地主の家でも」
「ないものは多いんだね」
「秋田はそれだけ開けていなくて」
「東京には全てあるってことだね」
「パン?アイスクリーム?牛乳?」
伊達はここではシニカルに言った。
「そういったものはね」
「とてもだね」
「ないんだね」
「それこそ」
「そうしたものは」
「そうだよ、ないんだよ」
本当にだ、全くといった口調での言葉だっ
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