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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十六話  深謀遠慮
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ン司令長官への信頼は大きい。そして司令長官もメルカッツ閣下を信頼している。そうでなければ十三個艦隊も預ける事は無い筈だ。

「心配かな、シュナイダー中佐」
「心配はしておりません。ただ順調過ぎて……、戦いらしい戦いもしておりませんし……」
何て言って良いのだろう? 困惑して口籠るとメルカッツ閣下が珍しく笑い声を上げた。

「現実味が無いかな」
「そうです、なんと言うか現実味が有りません。碌に戦っていないのに反乱軍は敗北目前です。百五十年続いた戦争がこんな形で終わるなんて……、不思議な気分です」
閣下がウンウンと頷いている。
「まあ気持ちは分かる。私も似た様な事を感じているからな」
そう言うと閣下がまた笑い声を上げた。

「やはりシャンタウ星域の会戦が大きかったのでしょうか?」
閣下が私に視線を向けた。
「確かにあれは大きかった。だがそれ以上にフェザーンを反乱軍に委ねた事が大きかったと私は思っている」
「フェザーン、ですか……」
メルカッツ閣下が私を見ながら頷いた。

「得たものは守らなければならん。フェザーンを得た所為で反乱軍は少ない兵力を更に二分せざるを得なかった」
「……」
「本来少ない兵力は集中して使わなければならんがそれが出来なかったのだ。だから効果的な防衛戦も出来なかった。我々は碌に戦っていないのではない、正確には反乱軍が戦う事が出来なかったのだと見るべきだ」
「なるほど」

フェザーンが中立であれば反乱軍は戦力をイゼルローン方面に集中できた。要塞は失ってもイゼルローン回廊の出口付近での迎撃は可能だっただろう。或いは反乱軍領域奥深くに誘い込んでの決戦も可能だった筈だ。その全てがフェザーンを得た事で崩れた。

「あの当時は反乱軍にフェザーンを渡す事に随分と驚いたが今考えてみれば恐るべき深謀遠慮だったな」
メルカッツ閣下が嘆息を漏らした。閣下が私を見た。厳しい眼だった。
「シュナイダー中佐、もう少しだ、もう少しで宇宙から戦争が無くなる。だから最後まで気を抜かずに戦う事だ」
「はっ」
私が答えると閣下が軽く頷いた。眼は厳しいままだった。油断するなと眼が言っていた。




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