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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百七十六話  深謀遠慮
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現状の距離を維持、後退せよ」
「はっ。全艦隊に命令、現状の距離を維持、後退せよ」
俺の命令をヴァレリーが復唱した。それを受けてオペレータが各艦隊に命令を出す。ややあって艦隊が後退を始めた。

「反乱軍、速度を上げました! 接近してきます!」
オペレータの報告が艦橋に響く。艦橋の空気がザワッとした。戦いたがっている……。ヴァレリーが俺を見た、俺が頷くとヴァレリーも頷いた。
「現状の距離を維持、後退速度を上げよ」
良いぞ、ヴァレリーは落ち着いている。いや、やはり同盟軍とは戦いたくないのかな。しかし妙な話だ、司令長官と副官が敵と戦いたがっていない。こんな事は帝国の歴史の中でも初めてだろう。

「相手は必死ですな」
「そうですね、でもこっちも必死ですよ」
俺が答えるとリューネブルクが笑い出した。“それは良いですな”なんて言っている。冗談だと思っているのかな、俺は本気だぞ。宇宙の統一がかかった一戦なんだ。本気で逃げるし逃げる事を恥とも思わん。正々堂々なんてのはスポーツだけで沢山だ! これは戦争だ、勝つ事が重要なのであって戦う事が重要なのではないのだから。



帝国暦 490年 4月 13日   バーミリオン星域  メルカッツ艦隊旗艦ネルトリンゲン ベルンハルト・フォン・シュナイダー



「閣下、バーミリオン星域です」
メルカッツ閣下がスクリーンに映るバーミリオン星域を見詰めながら“うむ”と頷いた。
「帝国軍がこの辺りまで進出するのは初めての事だ。……バーラト星域まではあとどのくらいかな?」
「五日程と想定しています」
「そうか、五日か」
閣下は人生の大半を反乱軍との戦争に費やしてきた。その反乱軍の最後の日が近付いている、感慨深いものが有るのだろう。

フェザーン方面軍は当初十三個艦隊で編成されていた。だがフェザーン攻略後は第一軍、シュムーデ、リンテレン、ルックナー、ルーディッゲの四個艦隊が分離した。そしてガンダルヴァ星域の惑星ウルヴァシーを補給基地とするためにルッツ、ワーレン艦隊がウルヴァシーに留まっている。現在、フェザーン方面軍は七個艦隊でハイネセン攻略に向かっている。

「シリーユナガルに寄ってからハイネセン……。一週間といったところかな、中佐」
「はい」
シリーユナガルはバーラト星系第六惑星だ。そこで我々はハイネセンを守るアルテミスの首飾りを攻略する材料を調達する。アルテミスの首飾りは瞬時に砕け散る筈だ。

「問題は反乱軍の邪魔が入らないかですが……」
メルカッツ閣下が軽く笑みを浮かべた。
「シュタインホフ統帥本部総長によれば反乱軍はジャムシード星域で司令長官と対峙しているそうだ。こちらに来るような余裕は有るまい」
「はい」
反乱軍の動向を閣下は全く心配していない。閣下のヴァレンシュタイ
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