巻の十七 古都その十一
[8]前話 [2]次話
「仕事がない時はそうしようぞ」
「十一人で共に」
「共に死ぬまで」
「楽しく生きましょうぞ」
主従で共に話した、そうして。
十一人で素麺を楽しみだった、一行は長谷寺を後にして次は伊勢に向かうことにした。寺を出る時にあの尼僧が一行に言って来た。
「ここから東に行きますと室生寺もありますので」
「その室生寺にもか」
「行かれてはどうでしょうか」
「そうじゃな。丁渡通り道じゃ」
長谷寺と同じく、とだ。幸村も答えた。
「それならな」
「参られますか」
「そうしよう。しかしこの国は実に寺社が多いな」
「都の様に」
「うむ、それがな」82
実にというのだ。
「よいな」
「古い国なので」
「その分だけじゃな」
「この国は寺社が多いです」
「それが大和じゃな」
「明日香にもです」
そこにもというのだ。
「多くのものがありますので」
「明日香か」
「はい、あちらにもです」
「そうか、では機会があればな」
「その明日香にもですね」
「行こう、それと貴殿はこれからもか」
「この長谷寺にですね」
尼はすぐに自分のことを言われていると思って返した。
「いると」
「そうされるのか」
「はい、俗世に未練はないので」
微笑んでの問いだったがだ、その微笑みには寂しいものが入っていた。
「ですからもう」
「そうか、ここで過ごされるか」
「夫の菩提を弔いながら」
こう言うのだった。
「そうしていきます」
「そうか、わかった」
ここまで聞いてだ、幸村は納得した顔で頷いた。そのうえで尼僧に述べた。
「では穏やかに」
「はい、この寺で」
生きるとだ、尼は幸村に言った。その彼女の見送りを受けてだった。一行は長谷寺を後にして東にさらに向かった。
その山道を進みつつだ、幸村は左右の草木を見つつ家臣達に述べた。
「猪か熊が出そうだな」
「まあ普通にですな」
「獣はいますな」
「気配もしますし」
「うむ、今は腹が減っておらぬ」
素麺をたらふく食べたからだ。
「そして干し飯や干し肉も持っているからな」
「無闇に殺生をしてですな」
「食う必要もありませぬな」
「それには及ばぬ。だからな」
それでというのだ。
「獣が襲って来ぬ限りはな」
「別にですな」
「手にかけることはありませぬな」
「そういうことじゃ。そのまま通ろうぞ」
こうしたことを話しつつだった、一行は室生寺にも向かった。そこにも寄りつつ伊勢を目指して東に進んでいた。
巻ノ十七 完
2015・7・30
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ