巻の十七 古都その八
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「随分と長旅で服もか」
「はい、我等も」
「随分とです」
「服が荒れてきましたな」
「長旅の中で」
「仕方ないにしてもな」9
旅の間着ている服はずっと同じだ、しかも山道を歩き野宿もする。それで服が荒れない筈がない。これは誰でも同じだ。
それでだ、尼も言ったのだ。
「それでわかりました」
「そういうことか」
「はい、それで伊勢にもですね」
「参る」
実際にとだ、幸村は尼にっはっきりと答えた。
「そして社を見るつもりだったが」
「私のお話を聞いてですか」
「細かく見ようとな」
そう、というのだ。
「そのことも決めた」
「左様ですか。では」
「うむ、行って来る」
こう笑顔でだ、幸村は尼に答えた。
「その様にな」
「では。それとなのですが」
「何かあるか」
「お言葉に信濃の訛りがありますね」
幸村のそれにというのだ。
「上田の」
「そこまでわかるか」
「信濃の生まれなので」
「そうであったのか」
「はい、ですが夫が長篠の戦で死に身寄りがなくなり」
「仏門に入りか」
「この寺にいます」
こう幸村に話すのだった。
「このままずっとこの寺で暮らしていきます」
「そうか、長篠か」
「お武家様もご存知ですね」
「拙者はその戦の頃まだ幼かった」
とても戦の場に立てる様な歳ではなかった、元服もまだだったのだ。
「それでこの目では見てはおらぬが」
「それでもですね」
「あの戦の話は聞いている。当家もな」
真田家であることは隠して言うのだった、寺なので俗世のことを言うことは無粋だと思いそうしたのである。
「叔父上がな、二人な」
「亡くなられましたか」
「その戦でな」
「そうでしたか」
「うむ、そうなった」
こう言うのだった、遠い目になり。
「織田家との戦で」
「お武家様もそうでしたか」
「そしてそれからな」
「武田家は衰え」
「滅んだな」
「今年の三月でしたね」
「栄枯盛衰は世の常であるが」
それでもとだ、幸村は遠い目になり述べた。
「あっという間のことだった」
「左様でしたね」
「その武田家を滅ぼした織田家も今や」
「どうなるかわかりませんね」
「前右府殿が本能寺で倒れられてな」
「果たして天下はどうなるのか」
「おそらく羽柴殿だと思うが」
次の天下人はというのだ。
「まだ完全にははっきりとしていない」
「まだ戦は続きますね」
「そうなる、しかし十年も経たぬうちに戦もな」
「なくなると」
「そうなる」
まさにというのだ。
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