巻の十七 古都その七
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「あの様に優雅なものはない」
「ますらおですな」
こう言ったのは根津だった。
「殿は」
「そうじゃ、雅も嫌いではないが」
「それでもですな」
「拙者はやはり武士じゃ」
だからだというのだ。
「優雅よりもそちらじゃ」
「そうですか、では」
「これからもな」
「源氏の君ではなく」
「武士として生きていたい」
「源氏の君は公卿ですな」
由利は源氏の君が何なのか言った、そのことは源氏物語を知らなくとも知っていることである。
「しかし殿は武士ですな」
「左様、まさにな」
「だからですな」
「雅よりも武を先に置く」
武士として、というのだ。
「そうしたい」
「では武士として長谷寺に参りますか」
笑ってだ、海野は幸村に言った。
「殿は」
「そうしたい、御主達もな」
「我等も武士として」
「参るぞ」
「有り難きお言葉、では」
「共にな」
幸村は家臣達に微笑んで言った、そのうえで長谷寺にも参ることにした。その長谷寺に入るとすぐにだった。
深い山の中に尼達がいた、穴山はその尼達を見て一瞬驚いたがすぐに納得して呟いた。
「そうか、この寺はな」
「女人高野といったな」
猿飛も言う。
「そういえば」
「そうであったな」
「高野山はおなごは入られぬからな」
「ここと室生寺がそうじゃったな」
「うむ、女人高野でな」
「尼が多いのじゃ」
そうなっているというのだ。
「そういうことじゃったな」
「その通りじゃ」
こう話すのだった、そして。
その尼達のうちの一人が幸村のところに来てだ、こう言った。
「あの、宜しいでしょうか」
「何か」
「はい、貴方様は何処に行かれますか」
「これから伊勢に向かうつもりであるが」
「そうですか、では伊勢に参られましたら」
「伊勢に何かあるのか」
「隅から隅まで御覧になって下さい」
こう幸村に言うのだった。
「それだけの場所です」
「隅から隅までか」
「そうです、多くのものがある社なので」
「それでか」
「そうされて下さい」
「ではそうさせてもらおう、しかし」
「しかしとは」
「何故我等にそう言ったのか」
幸村は怪訝な顔で尼に問い返した。
「何処に行くか尋ねたのは」
「旅の方の身なりだったので」
「それでか」
「しかもこの寺は旅の方も来られるので」
そうした寺だからというのだ。
「思った次第です」
「ふむ、そういえばな」
幸村はここで己の身なりを見た、そのうえでこう言った。
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