巻の十七 古都その六
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「その米は水がなくてはな」
「ですな、何もなりませぬ」
「米は水があってこそです」
「それでこそ田が出来ます」
「だからですな」
「よい水がよい米を作り」
そしてだった。
「よい米がよい酒を作るのじゃ」
「そういうことですな」
「上方の水がよいからですな」
「それでよい酒になっている」
「そうなりますな」
「そうなる、水が悪いと酒もまずくなる」
ただ水に留まらずというのだ。
「そうしたことからも近畿はよい場所じゃ」
「この奈良もですな」
「そうなりますな」
「うむ、そういうことじゃ」
幸村は家臣達に微笑んで述べた。
「酒のこともな」
「そして水も米も」
「そうしたことも含めて」
「近畿はよい場所ですな」
「実に」
「そう思う、この奈良で遊んだ後は」
それからとだ、また言った幸村だった。
「伊勢に行くが」
「伊勢神宮ですな」
筧が幸村に問うた。
「あの社に行かれますな」
「そのつもりじゃ」
「ですな、やはり伊勢といえば」
「伊勢神宮じゃ」
そこに行かねばというのだ。
「必ず参るぞ」
「ではこれより」
「共に伊勢に行き」
「そして、ですな」
「願いも立てまするな」
「そうしようぞ。そういえばな」
堺に行く途中のこともだ、幸村は思い出した。
「住吉大社にも参ったが」
「あの社も大きかったですな」
霧隠が応えた。
「実に」
「うむ、立派な社じゃった」
「そして次は」
「伊勢じゃ、よいな」
「春日も参り伊勢も参り」
「神も感じようぞ」
これからのことも話してだった、主従は奈良も楽しんだ。そして奈良を楽しみ町を後にする道中において。
伊佐が山道を歩きつつだ、幸村に言った。
「長谷寺にも寄りますか」
「女人高野じゃな」
「そうされますか」
「そうじゃな。丁渡道中にある」
これから行く先にとだ、幸村も答えた。
「それならばな」
「はい、それでは」
「寄ろうぞ」
幸村は微笑んで伊佐に答えた。
「長谷寺にもな」
「それでは」
「長谷寺か、源氏物語にも出ておるというな」
望月は二人の話を聞いて述べた。
「確か」
「その通りじゃ、しかと出ておる」
幸村が望月のその言葉に答えた。
「源氏の君が参っておる」
「では殿が参られれば」
「拙者が源氏の君となるというのか」
「そうでは」
「いや、拙者は源氏の君ではない」
このことはだ、幸村ははっきりと否定した。
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