災いの種
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夕暮れの街をカラカラと軽快な音を立てながら、黒塗りの馬車がゆっくり走って行く。
敷き詰められた石畳の僅かな段差が狭い車内に振動を与え、真っ白な衣で包んだ老体を上下に軽く弾ませる。
アリア信仰の最高職が治める宗教国アリアシエルの一番都市リウメ……此処に来たのは、これで何度目かな。
カーテンを開いた小窓から街並みを窺えば、黄金の空に圧倒された建物達が黒く埋もれていく所だった。
赤茶色の煉瓦に眩く反射する、一日の名残。
駆けて行く子供達の笑顔は、明日も友達と一緒に遊べると信じて疑わない、無垢で無邪気なものばかりだ。
私が若い頃には無かった自由が、現代の今この瞬間、此処に在る。
羨ましいやら、微笑ましいやら。
彼らが笑っていられる今はとても大切な時間で、しかし彼らにとっては当たり前の日常でしかない。
そんな当たり前の日常の大切さを知って欲しいと願うのは、それを手に入れられなかった人間の僻みからきているのかも知れないね。
今在る物の儚さを身に染みて理解しているからこそ、伝えたいと思うのも間違いじゃないんだけど……誰かの後悔が、別の誰かの教訓になる事はないと……それもよく知ってるからねぇ。
綺麗事でなくそれが通用していたら、戦争なんて莫迦莫迦しい物は繰り返し起きたりしないのだから。
先行者の体験談など、後世ではただの物語だ。心で何かを感じても、実体験が伴わない限りいつかは忘れ去られる夢物語。
耳に心地好い言葉だよね。今のご時世とか、時代とか、移り変わりって。人間の本質がそんなにコロコロ変わる筈もないのに。
だからと言って語り継ぐ努力を蔑ろにしないのは、人間の素敵な所だと思うよ。この悪循環が途切れる日の訪れを祈っているのは私も同じ。
残念ながら、世界平和の実現を手放しで信じられるほど善良でもないのだけどね。
この建物が占有している土地面積だけで一つの町が作れるんじゃないかな？ って広さの真っ白なアリア主神殿に入って直ぐ、なんともギスギスした空気を感じた。
うーん……予想はしてたけど、息苦しい事になってそうだ。
一般にも開放されている区画をひたすら真っ直ぐ奥に進んで、神殿騎士達の厳重な警備で護られた大仰な木製の二枚扉を最低限の幅に開く。
巨大な擂り鉢状の室内は薄暗く、天井の中央に吊り下げられたこれもまた巨大なシャンデリアは、殆ど飾り物状態。
その真下で三十名程の先客の皆さんが円卓を囲んで着席し、笑顔の仮面をぴったり填めてお迎えしてくれた。
彼らは各国を代表して召集された大司教。その周りの数段高い席に着いている二十名程の方々が枢機卿。
そして正面奥の一際高い席に着いているのが、アリア信仰の頂点に立つ教皇猊下だ。
久しぶりな顔から初めて見る顔まで、老若男女勢揃い。は、良いんだけ
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