1部分:第一章
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っちにしろワルはワルだ」
「そうなのかい」
「俺もあんたもな」
そう言ってバーテンに顔を向けた。
「お互い表じゃいい顔をしてるがな。裏はどうかね」
「それはお互いもう知ってることじゃないのかね」
「へっ」
その言葉に口を歪ませて笑ってやった。そして酒を口に入れる。最後の一杯だった。
「じゃあその命を狙われてる間抜けの運命が見物だな」
「何でもその殺し屋はしくじったことがないらしい」
これを聞いても特に驚くことはなかった。こっちの世界じゃそうした宣伝文句はありきたりだ。俺もそういう看板を立てて生きている。こっちの世界じゃ失敗はなかったことになる。それには理由がある。とんでもないヘマはそのまま手前を棺桶に案内するパスポートになるからだ。
「絶対にな。標的はどんなことがあっても始末する」
「その間抜けはもう命運が決まってるってか」
「そういうことになるな。まだ飲むかい?」
「いや、もういい」
今日はかなり飲んだ。ここで収めておくことにした。
「何だ、早いな」
「ここの酒が美味かったんでな。よく酔えたと」
「それはどうも」
「今度は特別のカクテルが欲しいな」
「何を飲みたいんだい?」
「ブラッディ=マリーを」
俺は思わせぶりに笑ってこう言った。言いながら席を立つ。
「それもとびきりのトマトを使ってな」
「あんたトマトはいけるのかい?」
「先祖が先祖だからな」
イタリアから来た奴等がトマトが苦手とあっちゃ話にならないというわけだ。
「大丈夫さ」
「それは毎度」
「あんたもビールの他にそうしたカクテルはどうだい?」
「俺にとっちゃビールは魂の味なんだよ」
「魂のか」
「そうさ。祖先のさ」
こいつはドイツ系だ。第一次大戦の時ドイツ系への偏見が強まってそれへの嫌がらせの為に禁酒法が成立した。他にもピューリタリズムがどうとか複雑な話があるらしいがどっちにしろドイツ系への嫌がらせで禁酒法が成立したのは事実だ。自由の国やそんなことを言っていてもこんな馬鹿な話もある。要するに敵の血が入ってる奴が憎かっただけだ。そのビール業者を狙い撃ちにしたのがこの法律だ。で、こいつはそれを根に持っていると言いたいのだが実は単にビールが好きなだけだ。適当に理屈をつけてるだけだ。
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