月下に咲く薔薇 16.
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たとえ魔物の囁きでも、これ程えげつないく他者の理性を串刺しにはしないだろう。刺し傷からは後悔という名の血が滴り、ティエリアの内面を慚愧の念で真っ赤に染める。
『正し…、そうだ。僕には…、私には…』
少年の心の軋む音が、クロウの胸にも届いた。彼の薄い唇が震え、焦点の定まらない眼差しは目前の敵さえ捉えなくなる。
クロウは、咄嗟にEAGLEを連射した。
『野郎!!』
それは、ロックオンも同じだ。敵機が近すぎて精密射撃には不向きな為、GNピストルを二丁拳銃として速射に使う。
ショッピング・モールでミヅキに見せた、照れ戸惑うティエリアの表情。そこには、真の意味でようやく顔を上げつつある少年戦士の素顔があった。
たった半日前の出来事だ。誰もが良い兆しと受け止めていたのに、アイムは一瞬でティエリアの時間を巻き戻してしまった。
いや、戻っただけではない分、更に質が悪い。ティエリアは今後、自問自答をアイムの声で繰り返す事になる。揺さぶる事自体を目的として現れた男の声で。
「交渉は決裂だ! アイム!!」
虚言家に向ける怒りは、一部がクロウ自身をも包囲しちりちりと焦がす。
迂闊だった。サーシェスの操るスローネツヴァイがロックオンの右目を傷つけた時、アイムは側で全てを見ていた。あの日ティエリアの心を壊し損ねた男が、いずれ別の機会を狙うと考えても良かった筈なのに。
どのような攻撃も、重ねがけはより効果的だ。当然、アイムが知らぬ筈はない。
「仲間を狙わず直接俺を攻撃しろ! 前にも俺はそう言った筈だ」感情を抑える事をやめ、クロウは激しく怒声を上げる。「それにだ! 俺の行く先は俺自身が決める!! てめぇは、二度と次元獣が狙われないよう1頭1頭の尻尾に何が危険か言い聞かせとけ!!」
しかし当然の如く、EAGLE、GNピストルの全弾は、月が照らす夜の闇に消えた。
決して1発も命中しない。アリエティスは、出現時から同じ姿勢を貫いている。それは、囲みの中の単機が立場上劣っている訳ではない、との強烈なメッセージでもあった。
念など押さずとも、それを事実と理解している。情報量に、奥の手とも言うべきアリエティスの攻撃。今のZEXISが持っていないものをアイムは手にしているのだから。
尚の事、罵声ばかりに力が入る。
心中は複雑だ。様々な特技を持つ自分がブラスタのコクピットに座りながら、直撃させるものが言葉しかないとは。
『尻尾…? 何故尻尾なの?』意図を読みあぐねているアナ姫に、『アイムの言葉は頭で聞く為のものではない、と言いたいのだろう』とC.C.が説明する。
『揺れる天秤。ならば、貴方が自らの意志で来るのです。決断は急いだ方が良いですよ。敵の動きは早く、ZEXISには力が足りません。それで私と交渉など。決裂も何も、無意味ではありませ
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