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逆さの砂時計
くらすちぇんじ・まりあさま
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「いえ、ベゼドラはどうでもいいんですが」

 自身の顔の前で右手をパタパタと振るリースリンデ。

 不思議ね。
 精霊にとっては人間も悪魔も等しく忌み嫌う存在なのに、リースリンデはベゼドラを嫌ってる感じじゃない。怖がっている様子もない。
 人間的にいえば、喧嘩(けんか)友達? の感覚なのかしら。

「レゾネクトとアリアは繋がってる。昔レゾネクトが利用していたものを、今度は私達が利用させてもらうだけよ」
「はあ……」

 レゾネクトがこの作戦に気付いたら、きっとベゼドラを狙ってくる。
 フィレス様のほうに来ても構わない。
 私にさえ来なければ、次の手は打てる。
 考えなきゃいけないのは、作戦遂行中の私の身の振り方だ。

『アルフリードのバカの遺志なんざ、どこぞの海にでも棄てちまえ。二度とくだらない失態見せんじゃねぇぞ、聖天女』

 本当に。なんてくだらない失態だったのかしら。数千年を経た今になって自分が犯した最大の(あやま)ちを指摘されるなんて、情けない。
 でもね、ベゼドラ。
 私はもう、それを過ちとしてすんなり受け入れているの。
 アルフリードの影響なんて、私には欠片も残ってないと思うのよ。

 愚かだった。本当に。
 あの瞬間の選択には、後悔よりも怒りが沸いてくる。
 何もかもを失ったのは、皆に甘えてばかりいた私への罰ね。
 今度は……今度こそは、あんな無様な醜態(しゅうたい)を曝したりしない。
 アリアだけは絶対に譲らないわよ、レゾネクト。

「みゃいみゃみゃ、にゃえにゃみゃみょみょう」
「ありがとう、ティー」

 もう一度頬をすり寄せてきたティーの頭を撫でて、微笑む。

「……本当に、何て言ってるんだろう……?」

 怪訝な表情でポソポソと呟くリースリンデにも微笑み。
 今なお明るい空を見上げた。

 半分欠けたままの太陽が、私を白く照らしてる。
 その強い陽光こそが、色濃い影を生み出しているのだと。
 太陽自身は知っているのだろうか。



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