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泥田坊
2部分:第二章
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第二章

「あの田畑はな」
「ああ、親父」
「あの田畑ね」
「決して売るな」
 こう彼等に言うのだった。
「残しておけ。そして耕してくれ」
「耕す」
「あの田畑を」
「あれはわしの全てだ」
 首を動かす元気ももうなかった。ただ上を見上げているだけである。そのままで自分の子供達に対して語り続けるのであった。
「だからだ。残しておいてくれ」
「・・・・・・・・・」
 子供達は今は誰も答えなかった。既にその考えは決まっているからだ。しかしそれを言うことはできなかった。言うにはあまりにも後ろめたかったからである。
「田畑をな」
 子供達はやはり答えなかった。賢作はそのまま息を引き取った。それから暫くして彼の子供達は家にスーツの如何にも真面目そうな男を呼んだのだった。
「それではこの田畑をですね」
「はい」
「そうです」
 彼等はこう言ってそのスーツの男に説明するのだった。今彼等は外に出てそのうえでスーツの男に対して色々と説明していた。
「この田畑を全部です」
「売りたいんですけれど」
「広いですね」
 男はその田畑を見回してまずはこう言った。
「売ればかなりのものになりますよ」
「そんなにですか」
「ええ。それにです」
 男はさらに彼等に話すのだった。
「場所もいいですしね。色々と買い手が見つかると思いますよ」
「だったら兄貴」
「売りましょう」
「そうよ。どうせ耕す人もいないんだし」
 弟や妹達が長兄と思われる一番年配の男に話していた。
「それでいいじゃないか」
「高く売れるみたいだし」
「そうしましょう」
「そうだな」
 そして彼もそれに頷くのだった。
「それがいいな」
「そうそう」
「じゃあそれで決まりね」
「よし」  
 彼等はこれで話を決めたのだった。
「じゃあどれ位で売られますか?」
「そうですね。どれ位で売れるかですが」
「これ位になると思いますが」
 男はここで電卓を取り出した。そうして簡単に計算したうえでその額を彼等に見せるのだった。電卓に出たその額をである。
「如何でしょうか」
「えっ、それだけで売れるんですか!?」
「本当に!?」
 その額は彼等をして驚かせるのに充分であった。そこまでの額だったんである。
「そんなにですか」
「そんなに高く」
「ですから場所もいいですし広いですし」
 条件は複数あるのだった。
「ですからこれ位はいきますよ」
「じゃあこれで決まりじゃないか」
「そうよ。こんな値段で売れるんだったら」
「本当に。買いましょう」
「わかった」
 また弟や妹達の言葉に頷く長兄だった。
「それでは売るという前提で」
「はい」
 長兄の言葉ににこやかな顔で頷くスーツの男だった。
「話を進めていきましょう」

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