第3章 黄昏のノクターン 2022/12
21話 黒の薬師
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ゴからの受信したボス攻略の進捗を記したメールがアクションを起こすきっかけとなったのだ。慌てて返信し、アルゴから迷宮区のマップデータを受け取ると、ヒヨリとティルネルに声を掛け、現在地であり既に攻略の終わった隠しダンジョン《緑の古社》を後にする。森を抜け、間もなく見える迷宮区に突入。道中でメール受信を報せるサウンドが鳴るのを聞きつつ、マップを確認してモンスターを潜り抜け、脱兎の勢いでボス部屋へ進入。プレイヤーがダイスロールで一喜一憂する横を抜け、加速度の乗った跳躍で進路上の毬栗頭を飛び越える、背後から「なんやおのれら!?ちょお待てぃ!」と呼び止める叫びが聞こえたが無視。そのまま往還階段を駆け上る。そして、ついに終点である往還階段の終着点、第四層の扉にまで到達。一旦足を止めて門扉のレリーフを凝視する。
「船なんかに乗ってるな。このレリーフの旅人」
「燐ちゃん、私もお船に乗りたい!」
「良いですよね。自分だけの船って、なんだか憧れちゃいます………」
砂だらけの枯れ谷で船。記憶に焼き付いているマップデザインと、それと真っ向から対立する船のレリーフ。俺にはこの意味を解するだけの感受性も理解力も要求ステータスに達していないらしいが、女性陣は今日も自由奔放だ。不覚にも少しだけ安心してしまった。それより、これは何かの暗喩なのだろうか。ベータ時代のダンジョン攻略に見向きもしなかった過去も手伝って筋読みが全く出来ないが、まだ悩むには早い。
「まあ、見てみれば分かるか」
しかし、思考に割く時間も惜しい。さっきのボス攻略に参加したプレイヤー達の中にキリトの姿は見当たらなかった。迷宮区の入口からボス部屋前までで擦れ違ってもいない。つまりはこの先に向かったと考えて然るべきだろう。彼もまたベータテスター。プレイヤーのいない第四層は独壇場であろうし、或いは律儀に転移門のアクティベートを済ませるかも知れない。下の層からプレイヤーが雪崩れ込めば、それこそ事だ。早急に主街区に到達して、利用に堪える拠点を誰よりも先に奪取しなければ隠しクエストを諦めざるを得なくなる。報酬が優秀だっただけに諦めたくないというのが本音だが、ヒヨリやティルネルに不便な思いをさせたくもない。諦めるにしたって、それに足る確証を以て納得したい。
とにかく今は前に進もうと扉を開く。午後の眩しい光が視界を白く染めるなか、聴覚野では想定していなかった音に若干困惑する。そして視界に色彩が戻り、俺はやや圧倒される。
「………おっきい川だね」
扉の向こうを見つめながら、ヒヨリが呟いた。
かつての乾いた砂礫の大地はどこへやら、苔むした地表に覆われた小高い丘は想像だにしない潤いの象徴だ。そして何より、この層の劣悪な生活環境の象徴にもなっていた膨大の砂
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