暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十六話 内地にて
[3/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
の身なりであり、弓月はモーニングを纏っている。
この場で軍服を纏っているのは軍監本部と兵部省から直行した三人だけである。
「俺も、だな。皆も楽にしろ。」
 殿下が即座に言葉を切り替える。御付き武官からこの手の言葉を習ったらしい。
口調に合わせて姿勢を崩し、実仁が問い直す。
「で、あの総反攻か?」

「そうです、殿下。
六月を予定されている夏季総反攻作戦。あれは楽観的に過ぎます」
保胤様が答える。
「ふむ、それを止める為の悪行に俺を巻き込むと?」
「そこまでひどい話ではありませんよ」
 そう言いながら苦笑する。保胤・窪岡、そして実仁、この三人は幼年学校で机を並べた仲である。
「おい、豊守、淳和、本当か?」
「私はそれ程あくどい話ではと思います」
 微笑を浮かべながら豊守が答える。
「貴様らの基準は当てにならん。私は大辺から概略のみを聞かされただけですのでなんとも
――おい、どうなんだ。」
窪岡も保胤へと向き直る。
「夏季総反攻。それに対する近衛と軍監本部、そして執政府。それぞれの意見を確認したいのです」
 保胤は酒を一口含み、一人だけ居る文官へ目礼すると言葉を継ぐ
「都護・龍州・駒州鎮台は反対、他の鎮台は賛成しています。
当然ですが、守原の護州が賛成派の筆頭です
宮野木の背州・西原の西州鎮台が積極的賛成
安東の東州鎮台は消極的賛成で様子見といった所です」
「都護は執政府の紐付きだ。
まぁ前線に出る事は無いだろうがそれゆえに客観的なのだろうな。
だが龍州は玉虫色だ。単純に、地理的に矢面に立たされるのを恐れているだけだろう。
フン、鎮台から軍になったら参謀の配置次第でまた意見が変わるに決まっている」
窪岡少将が鼻で笑う。

 皇州都護鎮台はその名の通り皇都近辺の治安維持、そして執政府の要人の警護が主な任務である。その為、規模は並だが兵の訓練は厳しく、近衛の代わりに精兵としての名を得ている。そして、皇州が天領であるので五将家よりも執政府の影響力が強い。

龍州は広大な東北地方の地名であり、その中の天龍の支配する龍上を除く三国を抱え鎮台の規模は駒州・護州並に巨大であるが、内部には五将家の者が入り混じっている
鎮台司令官は潰れかけた諸将家の人須ケ川大将である。彼は政治的には殆ど無力であり、下級将官や佐官の間で五将家の派閥が実権を奪い合っている。
 その為、政治的には混然としている。よく言えば臨機、悪く言えば風見鶏だ。
 北領に派兵された兵団の主力を担った通り、北領に隣接しており総反攻でも矢面に立たされる事は分かりきっており、一方的に消耗される事を恐れた須ヶ川が反対派に同調しているに過ぎず、賛成派が飴を見せればまた意見が変わりかねない。
 現在、それに頭を悩ませている窪岡少将が嘆息し、軍監本部の動向
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ