二十一話
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リーリンがデスクの上にドサドサっと教科書を積み上げる。
ここに置いてあった教材までプラスされている。
「じゃあレイフォン始めましょうか」
「……うん」
その言葉に感じていた思いが根こそぎ奪われる。一度中断したからか余計忌避感が強い。
逃げようか。
そう思うがここまで連れてきてくれたクラリーベルに申し訳がない。
「向こうの本、読んでいい? ロンスマイアさん」
アイシャが教材のあった区画の辺りを示す。
「本は自由に読んでもらって結構です。見られて困るものはここには無いので」
了承の言葉にアイシャは一つ適当な本を掴みソファに座る。
「受験生どうし、私も勉強でもしましょうかねぇ」
クラリーベルが呟いて本棚へと動く。
二人のその姿勢に自分だけ逃げるのもバツが悪い。レイフォンは重く息を吐きデスクに座る。
「じゃ、続きね」
リーリンがタワーの一部を崩しレイフォンの前に置く。
湧き上がる恐怖。目を背けたい現実。手が薬物中毒者のごとく震えそうになるが気合で止め心を決める。
「頑張ってくださいね」
クラリーベルが言う。
その言葉に一抹の勇気を貰い、決心がつく。手から強ばった力が抜ける。
「はい。ありがとうございま……」
感謝を言おうとした先、ソファに寝転がっているクラリーベルにレイフォンは言葉が止まる。
傍らには明らかに勉強に関係のない本に飲み物まで置いてある。
「あの、クラリーベル様。それは何を」
「推理小説です。『肉の鼓動』シリーズって知りません? 筋肉信者の探偵がトリックを力技で解決してく話です。飲み物ならあっちにサーバーがありますのでご自由に」
あっち、と本から目を離さず隅の方を指差す。
「いやあの、勉強するってさっき……」
「え? ああ。する、じゃなく「しよっかな」って思っただけですよ。そもそもそ私は勉強とっくに終わってます。試験の日寝坊でもしない限り落ちることありませんので」
頑張ってくださいね、と笑顔でヒラヒラと手が振られる。
その笑顔が妙に柔らかく、寝たままのその姿にレイフォンは世の不条理さを嘆きながらペンを動かした。
その後は眠ったクラリーベルの気持ちよさそうな寝息にやるせなさを感じたり、アイシャは用があると言って途中で帰ったり。
ロンスマイア家に行く日もあったし行かない日もあった。
自分の身のことでクラリーベルに相談し、人目の離れる低所得者帯の安アパートを勧められたり。そこで見た目チンピラのニコチン中毒数字マニアにガンつけられたり。アイシャが押しかけてきたり。
それからの日々、レイフォンはそんな環境の中で勉強を続けていった。
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