二十一話
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に良かった。感覚からして「稽古」で全身の骨がいくらか折れているはずだが医者に向かおうとは思えなかった。昔自分で稽古していた時に近いこともあった。
ふと街に出たくなった。
歩くだけで全身に痛みが走る。剄を走らせると酷使された経脈が千切そうな程の痛みを訴える。こらえきれず、倒れそうになる度に街灯や店の壁に寄りかかり息を整えてまた歩き出す。暫く経脈は大人しくさせておいたほうがいいだろう。
荒れた息が白く目に映る。冬季帯に入った空気は冷たく、そこにいるだけで全身の傷に響き鈍い痛みを感じる。
「……ッ」
ふと走った痛みに右腕を抑える。
レイフォンに切り落とされた右腕は確かにつながった。だが、まだ本当の意味での完治には早かったのだろう。サヴァリスの「稽古」によって少し傷が開いた痛みだ。いや、もしかしたら幻肢痛や「古傷が痛む」類かもしれない。
意識してみれば確かに左足も違和感があるようにも思える。
だが、別にいい、とガハルドは歩き続ける。
人ごみにまぎれ、痛みを感じつつガハルドは思う。自分は一体どこへ行こうとしているのか。
自分は間違った。してはならないことをした。
ルッケンスを破門され、憧れに否定されどうしようもないほどに身が軽くなった。だからこそ柵を無視し思える。
どこから間違えたのか。きっと、同じになろうとしてしまったことだろう。
盲目だった。ともに並ぶことと天剣。目的と手段が逆転してしまった。
何故だか視界に映る街が広く見えた。ふと、ガハルドは空を見上げる。
武芸者としての矜持。それをどこで捨ててしまったのか。冷えた空気に澄んだ空を見れば思い出せる気がした。
ずっと、頑張ってきたはずだ。友と競い、弟弟子を育て、時には都市警に協力もした。前を見ていたはずだ。
見なくなったのはいつだろう。武芸者としての思いを忘れたのは。
諦め、に囚われかけた時だ。
世界が違うのだと納得したくなかった。子供の頃思い描いたように「天剣」になろうとした夢を諦めたくなかった。
「昔の大人」の様に笑って世界を違えたくなかった。近くにいたはずの“憧れ”と同じものを見たかった。
「光」が強すぎたのだろう。そしてそれに気づくには幼すぎた。諦めがつこうとした時にゴルネオという鏡を見せられ、ちっぽけなプライドに屈した。弟弟子のためなのだと、捻れをそう思い込んで正当化してしまった。
走り続けてしまった。息を付けと、少し休めと周りに言われたのに。
ああ、まったく
「馬鹿だな、俺は……」
鏡があったなら冷静に見るべきだった。一旦足を止めて息を付けば今見たいに視界は広くなったはずだ。
大事にしていた武芸者の矜持を持ち続けるべきだった。自分は自分だと割り切るべきだった。
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