二十一話
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「銅の酸化式は2Cu+O2=2CuO。鉄が2Fe+O2=2FeO。……金属は一つなんだ。二酸化炭素はC+……ああ、そのまんま二つなんだ」
へーと思いながらレイフォンはペンを握る手を動かす。
「銀はAg+……Ag2? え、あれ? 二つ?」
疑問に手が止まる。
二つ。そう二つなのである。
他の金属は一体一だというのに可笑しい。まさか銀は金属ではなかったのか。ならば衝撃の事実だ。
つい手を止めたまま後ろの幼馴染の方に体が向く。
「ねえリーリン。銀って金ぞ―――」
バシィィィン!!
突如乾いた音が空気を震わせレイフォンの振り向きを止める。
レイフォンは机の上、手元のすぐ傍に振り下ろされた音源に笑顔が止まる。
「ただただ書きなさいって言ったわよね……?」
暗い、聞くだけで心が怯えるような声でリーリンが言う。
その顔にいつものやらかい笑顔はない。無感情な、諌めるような、憐れむような、そんな表情だ。
分かりやすく端的に言うならバカを見る目だ。
「え、いやでも……」
「言いたいことは分かるわ。でもそれ合ってるから。手、止めちゃダメでしょ?」
片手でハリセンを弄びながらリーリンが言う。
「レイフォンは理解できないんだから頭じゃなくて体で覚えるしかないの。書いて書いて書いて体で覚えなきゃ。疑問を挟んじゃダメなの。考えても分からないでしょ? 考えるよりも早く言えるようにしなさい。頭で思うより先に手が書くようになるまでしなきゃ。……ほら、手、止めちゃダメよね……?」
優しく、けれど強い圧力を持った言葉にレイフォンは何も言えない。
逆らっても無駄だと分かっているのだ。
それ以前に何か言おうとしても口から出ないのだが。
突如リーリンが言う。
「水酸化ナトリウムの燃焼で発生する物質は?」
「え? えーと、その、確かえーと、あー、ナトリウムと……」
「酸化銅の化学式は?」
「ふふん。Cu2O!……あれ?」
ふふ、とリーリンが笑う。
「ほら、余計なこと考えたから間違えちゃった」
ビシビシビシビシハリセンを手で叩きながらリーリンが優しく言う。
「何も考えちゃダメよ。手を動かしなさい。ひたすらに書かなきゃね。……ほら、まだノートは百ページ以上ある。今までの後三十回は繰り返せるわよね」
「えっと、リーリンそれは……」
「ああ、足りないわよね。大丈夫。買っておくから」
「ちょっと手が疲れてきたなー、何て……はは」
「なら教科書を読みましょう。太い字のところだけ最低でも百回は読むのよ」
ひたすらにリーリンは佇む。
労力自体は大したことないはずなのにレイフォンは手が震えそうになる。
ずっとやってこなかったことなのだ。
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