第22話 総司の挑戦状
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新撰組屯所は土方勝利の知らせに歓喜の声で溢れていた。
「あの化け物に勝ったとはさすが土方さんだ」
と隊士達はもろもろの声が上がっていた。が、内心穏やかでない人物が一人いた。
(まさか、生き残ることができるとはな)
その男は苦虫を噛む思いだった。
怪物・岡田以蔵と土方が同士討ちになればと画策した男。そう伊東甲子太郎、その人だった。
事実、この男はいずれ暗殺されることになるのだが、今はそんなことは知る由もなかった。
歓喜に盛り上げっている隊士の中神妙な顔をして向かい合う二人の男がいた。
「近藤さん、私はあの岡田以蔵を倒した土方さんと死合いた」
青白い顔ではあるが幾分かの覇気のある顔である。鰓の張ったまさに豪傑そのものの顔つきの男が腕を組んで目を固く瞑っている。
その二人こそ近藤勇と沖田総司だった。
「なぁ、総司、そんなに歳さんと死合ってみたいのか?」
近藤はなにか思案げに目を瞑り沖田に言った。
「是非に」
沖田はそんな近藤に真剣な眼差しで答えた。もし、その場が女性との愛の語らいであったならば一瞬にしてその女性は落ちてしまったであろう。
「なぁ、総司。これは俺の独り言だと思って聞いてくれ」
近藤は目を開けることなく話始めた。
「おそらくなぁ、歳さんには勝てないと思う」
近藤の言葉に沖田は目を見開き詰め寄ろうとした。が、沖田の姿が見えるかのように右手の平を見せ制止した。
「総司よ。確かにお前は強い。多分、我らの中で一番強いと俺は思っている。多分、歳さんもそう思っているだろう」
近藤は再び腕を組んだ。
「だけどなぁー、総司。お前でも俺でも歳さんには勝てんのだよ」
近藤はゆっくり目を開き沖田をみつめた。
「何故です?」
沖田は近藤を見つめた。
「それはな、総司。剣技ではおそらくお前や斉藤君はずば抜けている。が、しかし、勝つためには戦略もなければならない。それは一対一の戦いであってもそうなのだ」
近藤は諭すように言った。
「では、私にはそれがないと言うのですか?」
沖田は近藤に問いかけた。
「いや、ないとは言ってはいない。じゃあ、聞くが総司、勝つために女や子供を盾にできるか?」
近藤もまた真剣な眼差しで沖田を見つめた。その問いにはさすがの総司も答え音ができなかった。
「では、土方さんは出来るというのですか?」
「いや、たとえが悪かったが、歳は多分それが出来る男だと俺は思っている」
近藤は再び目を閉じた。
「総司よ。剣は剣技だけに非ず。術を以って初めて剣術となすのだと俺は思う」
近藤は自分にも納得させるように頷いた。それに沖田も言い返せなった。
近藤はある二人の男を思い浮かべ。
山南敬介と伊東甲子太郎。
新撰組の中での二人の天才。彼らならばと。
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