真逆の龍
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、一生甘い蜜を吸って暮らせればそれで良かったのだ。
心底面倒くさい父の跡継ぎ問題を漸く乗り越えたというのに、目の前に浮かび上がったのは転がり込んできた不穏分子と外部勢力。
本当は劉璋も劉備を使いつぶす気でいた。精々役に立ってから死んでくれと思っていたし、たかだか義勇軍上がりで血統の正当性もうやむやな女など興味もなかった。
しかし、しかしだ。彼の元に来た女は少しばかり毛色が違った。
耳に甘く響く子供のような綺麗事。どれだけ辛い仕事を押し付けようと苛立ちさえ浮かべぬ性根。他人を信じて疑わない真っ直ぐさ。
モノにしてきた女達がくだらないゴミに思えるほど劉備という少女は劉璋にとって興味の対象だった。
護衛がついているから無理やり脅して従えることは出来ず、いつの間にか民からの支持を集めていたから追い払うことも出来ず、それを知ってか知らずか毎日劉璋の元に来ては街々の改善案を述べて劉璋達にとっては暮らしにくいモノに変えていく。
本当は疎ましい。自分たちが甘く生きる為には邪魔だと理解もしている。
だが……彼にはどうしても劉備という少女を追い払うことが出来なかった。
毒で殺せと部下は言った。その部下は二日ほどで城から自主的に消えた。
劉璋は何もしていない。きっと劉備軍の誰かが追い払ったのだ。
――気持ち悪い……内側から自分たちの住処が変えられるというのはこれほどまでに異なモノか。
身体の中に虫が這いずっているような不快感。知っているモノが変わっていくことへの恐怖と喪失感。
認められないと自分の中の何かが否定する。下賤だと否定されようとも、自分の地位と血を守る為には必要なことだった。
真っ向から対立してくる劉備は彼に必要ない。それなのに……
――不思議と安らぐんだ。あいつが居ると。俺相手に物怖じせず本音で話して来る女なんて他には居ない。怯えも見せず、媚び諂うこともせず、ただ真っ直ぐ目を覗く奴なんて居なかった。
だから欲しい。隣に欲しい。姓が同じモノではあっても、そんなモノ気にもしなかった。
太守だからと無理に話を進めてもいいが、劉璋はしたくなかった。納得した上で劉備をこちらに落としたいのだ。
自分が惚れたのだと気付いた頃には民の生活など余計にどうでもよくなった。ただその女をどうすれば自分のモノに出来るか考えた。
ただし、彼は劉備の意見に賛同してはいない。劉璋は暗愚過ぎもせず、通常の太守としての知識も知恵も持っていたから劉備の語る理想の世界に賛同はしていなかった。
綺麗なまま欲しいとも思うが……底にある下卑た欲望も理解している。
純粋に見えるその心を汚く染めてみたい、と。
例えば徐庶や諸葛亮のような……打算や計算で人の心を操る人間にしてやりたい。
例えば自分
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