真逆の龍
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高尚なものではない。儂はこやつ等と共に……強敵と刃を交えたい……それだけなのだ。
胸が熱く滾っていた。旧知の友が敵になるやもと考えればそれだけで心が躍る。
正義などと安っぽいモノを吐く気にもならない。ただ純粋に、彼女はこの乱世が愛おしかった。
全身全霊を掛けて戦える場所が、命を輝かせる戦場が、ただ欲しかった。
これは欲だ。しかしどうしようもない欲望は止まらない。止められない。
武人とはそういうモノだと桔梗は思う。
そして目の前の男達も、自分の力を世に示したくて集まった大馬鹿野郎共。愛しい彼らと共に戦う戦場が桔梗には必要だった。
自分たちのような人種が生きた証明は、戦場でしか華開かないのだから。
「夏候惇、夏侯淵、張遼、張コウ……特筆すべきはやはり……黒麒麟か。くくっ、羨ましいぞ」
名だたる英雄たちが続々と名を上げていく。
それをこんな片田舎で……黙ってみていたという事実がどれほど悔しかったことか。
自分も何れと拳を握りしめて、練兵を始めた部下達を眺めながら彼女はふっと息を吐いた。
「最低限の義理は果たした、クソ坊主。英雄となりたいのなら策略に負けず生き抜いてみせい。男気を見せるのなら友と刃を交えることもしてやろう。儂が仕えたお館殿の血、己こそが龍と証明出来てこそ仕える価値がある。
劉備が勝ったなら死んだように生きて腐ったまま朽ちていけ。自分で選んだと勘違いさせられて止まった微睡の中で生きながらに殺される人生、そんな糞のような人生に満足できるのなら、な」
これが彼女が成長を見守ってきた太守に与える最後の機会。如何に小悪党になった太守であっても、忠義を誓ったならほいほいとその心を違えるのは嫌だった。
あとは野となれ山となれ。それでいい、それでいいと小さく呟いた。
きっと自分は曹操のところの方が性に合っている。そんな事は百も承知で……しかしそれ以上に彼女は……
「強敵と戦うことこそ武人の華よ。義理を重んじてこそ戦人の生き様よ。それをお前は忘れてしまったんじゃろ、紫苑」
正論よりも意地と武人の性をとった彼女は、自分の心に従うまま、からからと声を上げて笑った。
†
差し出された文に目を通し、ばさりと放り投げて男は少し伸びをした。
杯を満たせば手に取って一気に飲みほす。飲みなれた酒の味は喉を通れば熱く沁みわたるが……イラついた気分を晴らしてくれそうもなかった。
「何様のつもりだこの小娘」
文を送ってきた相手は見たこともない。見たいとも思わない。
外では覇王と呼ばれるその女は、劉璋の興味を引くに値しない。
劉璋にとっては外のことなどどうでも良かった。攻められることのないこの土地で
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