真逆の龍
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コトリ……
日向に浮かび上がる一時の平穏。崩すのも億劫に感じられる静寂を乱した盃の一つに目を向け、紫藍の髪を開いた片手で掻きわける美女が一人。
机上に並べられる酒瓶の数は一つ二つ……空いているのも一つ二つと。美女の対面もまた美女で、大陸を盛り上げている少女達とは少しばかり違い、彼女達二人は昔の戦を知っている。
昼間から酒宴とは何事か、と咎めるモノはいない。酒を飲んでいても変わらず仕事を行える事を皆知っていて、人柄からも信頼されている二人はこの城では咎められることは無い。
「儂らと共に留守番とは……あの方はもう少し人を疑うという事をするべきじゃな」
漏れるのはため息。
南蛮遠征には二人の内どちらかを向かわせればよいモノを……護衛として古参の将を残すことなく居残った桃香に対して、盃を置いた美女は眉を寄せた。
彼女の名は厳顔……真名を桔梗。此処益州にて古くから尽くしてきた歴戦の将である。そして対面に座り穏やかに微笑む美女もまた……益州に尽くしてきた忠臣……名を黄忠、真名を紫苑と言った。
「それが桃香様の美徳だもの。あなたも真っ直ぐ信じて貰えることに満更でもないでしょう?」
クスクスと口に手を当てての上品な笑み。ジトリとそれを睨んだ桔梗がまた杯を引っ掴んだ。
「……ふん、しかし儂はまだ認めておらん。確かに劉備殿の性根は信用に値するし優しさや慈愛の心も見て取れる……が、何処か引っ掛かる」
喉を鳴らして一気に流し込んだ。熱が喉から流れる感覚が心地いい。胃袋の溜まった熱さを、ため息を付くように吐き出した。
「焔耶ちゃんはあんなに慕ってるのに」
「あの阿呆は知らん! 発情期の雌犬に成り下がりおったあの阿呆など!」
「あらあら、その言い方は無いんじゃない?」
「見れば分かろうに! あの阿呆は街ですら劉備殿の護衛を買って出て近づく男共を睨み、ただ話し掛けようとするだけの男にすら噛みついておるんじゃと! 拳を振り上げることすらあるとも聞く! それが阿呆以外のなんと言える!?」
思い出すだけでも腹立たしい……娘や妹のように可愛がってきた弟子の今の姿は、武人としての人生を生きてきた彼女には不快だった。
ただの色恋ならばいい。だが、盲目で妄執する愚かしい愛弟子の姿など、即座に破門を言い渡してしまいたい程の無様さがあった。
「あー……アレは確かに……」
街でのそんな姿を思い出した紫苑の口にも苦笑いが浮かぶ。恋は盲目と言うが、さすがに突き抜け過ぎているとは感じていた。
「拳骨だけでは何も変わらん。一回きつぅく締めなければならんが……劉璋のクソ坊主の牽制にはなっておるから引き離すことは出来ん。歯痒いぞ」
すっと細めた目が殺気に彩られる。酒の席には似つかわしくない
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