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月下に咲く薔薇
月下に咲く薔薇 9.
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するか。いや、事実確認の方を優先すべきだろう。
 瞬考の末、クロウはブラスタを下り、見たように思う人影を追って建物の中に入った。手動のドアを押し開け、昼に訪れたフロアに再び足を踏み入れる。
 と、そこでクロウは聞いた。確かに靴音が聞こえる。1人分の足音だ。
 しかもそれは、あの吹き抜けの方に向かってやしないか?
 辺りは薄暗く、投光器の光が透過する窓の他には明るい場所がない。これでは誰と対面しても、相手の顔など判別できないとクロウが眉をひそめた時。
 声がした。
「おや、これは嬉しい事もあるものです」
 嫌悪感から鳥肌が立った。聞き覚えのある声だけに、嫌悪から静かな怒りが呼び起こされ、握る拳に力が集まる。
 クロウは、声の主の名を呼ぶ事が嫌だった。
 辺りの暗さに目が慣れてくると、男の体格をした人間がクロウの正面に立っているのだと気づく。
 その男は、嗤っていた。薄い陰影が、張り付いた笑顔の下にあるものを暴き立てるが如くに浮かび上がらせている。
 つい目を反らし上を見ると、ライノダモンの口があった。淡く青い光を放つ醜悪な口が尚も激しく暴れ、白い歯の存在だけを暗がりの中で強く主張する。正に、怪物の所行だ。
 しかし、次元獣の口もこの男に比べたら愛嬌のあるものにさえ見えてしまう。
「アイム…」クロウは最初、その一言を絞り出すのが精一杯だった。「やっぱりてめぇの仕業なのか。この悪戯紛いのライノダモンは」


              − 10.に続く −

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