月下に咲く薔薇 9.
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手にした携帯端末で、クロウはバトルキャンプに現在位置と状況を説明する。15分以内に応援が現場に到着する、との言葉に軽く胸を撫で下ろした。
「頼むぜ」
通信を切って、間近から突き刺さる熱視線に如何なる回答をしようかと考える。民間人2人が、クロウと基地のやりとりに高い関心を寄せるのは当然の成り行きだ。
つい先程まで、次元獣との断定を半信半疑のまま、異変に動じないクロウを火事場泥棒の類と疑っていたのかもしれない。幸いにも、ようやく幾らかは信じる気になったようだ。
尤も、背広の男の心情も十分理解には値する。クロウ自身、ライノダモンの全身が転移を終わらせていない奇妙さに強い違和感を覚えていた。時間がかかるにしても度を超している為だ。
大がかりな仕掛けを用意した本人が、次元獣出現の不安を煽って関係者までも外に出したがる。騙しの手法としてはあり得るもので、一応筋は通っていた。
「言っただろ? 俺は、軍の人間だって」安心させるつもりから、いつものように笑みを作る。「後は、バトルキャンプから来る部隊が対処してくれる。戦艦が来たりロボットが来たりと賑やかにはなるが、誰一人死なせないよう最善の努力をする。だから、俺達の指示には従ってくれ」
「は…、はい」
背広の男が店員には逃げるよう促すと、素早く会釈をし青年が走り去る。彼とすれ違い近づいてくる数人分の人影は、ミシェルやロックオン達のものだ。
「あんたは残るのか?」
クロウが問うと、施設関係者は精一杯の勇気で無言のまま首を縦に振った。
やや無謀に近いが、真面目で仕事熱心な日本人らしい。
「だったら、もう少し俺が付き合うぜ」
近づいて来る仲間の足音を耳で捉えながら、クロウは再び頭上の口を熱心に見上げた。
そして、改めて奇妙な事実に気づく。
大きく口を開くあの仕種は、ライノダモンが咆哮を上げる時のものだ。ブラスタのモニター越しに何度あの大口に目をやった事だろう。
地上ならば、大口と同時に耳障りな怒声が一帯の空気を震わせた。獣の咆哮と言うより金属の悲鳴に近い大音響がし、市街地のコンクリート壁を振動させ被害を更に大きくする。
だが、問題の口はこれ程近くにありながら、怒声どころか息を吐く音すら発していない。空気を動かす事もできないのか、布の装飾品は口の開閉にひらりともしなかった。
まるで、宇宙空間を跋扈している時の次元獣だ。
今の段階で、悪戯の可能性を捨てるのは早計か。
「…おっと。こいつは強烈だな」
クロウ達2人の背後に立ったミシェルが、落ち着いた様子で異形の口とその周辺を仰ぐ。
「バトルキャンプには通報済みだ。あと15分で応援が来る」と、クロウは自分の判断で行った事を仲間達に伝えた。
「こっちも、ロジャーから根堀木掘り聞かれた。向こうでも、別棟の避難誘導に協力
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