8部分:第八章
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第八章
「本当にね」
「それが変わったのは今の陛下の時からかな」
「いえ、その前でしょう」
そこまで見ているジャンだった。
「前の王様の時からだったと思いますよ」
「前の王様・・・・・・アンリ四世陛下か」
「ええ、あの方です」
ディアナが憎んでありあまるブルボン朝の開祖だ。その彼である。
「あの方が即位されてから少しずつよくなっていったそうですよ。最初は食べるものすら碌になかったそうですし」
「戦争をしていたからね」
ユグノー戦争だ。カトリックとプロテスタントの内戦でありヴァロア朝の末期はそれに大きく揺れ動いていた。サン=バルテルミーの惨劇という虐殺事件まで起こっている。
「それはね。特にパリは」
「飢え死にする人もいたそうです」
内戦がそうさせるのだ。長い戦争で犠牲者が出るのは常である。経済も流通も産業も破壊されしまうからだ。
「本当に酷かったんですよ」
「らしいね、本当にね」
「ええ、酷いことに」
暗い顔でダルタニャンに告げた。
「私はまだ飢え死にはしませんでしたけれどね。周りも」
「それでもだったんだね」
「ええ、それでもです」
ここで二人は階段を出た。
「前の王様が長い戦争を終わらせてくれたおかげで今があるんです」
「そして今は」
「はい」
さらに話すジャンだった。
「随分暮らしがよくなってきていますから」
「そうだね。本当にね」
「私達にとっては今のままが最高ですよ」
「ジャン達にとってはか」
ダルタニャンは今のジャンの言葉を聞いてふと顔を上げた。
「それは。人によるかな」
「あの方には違ったんですね」
「うん」
上を見上げたままジャンの言葉に頷いた。
「その通りさ、あの方にはね」
「それぞれってやつですかね」
「それとは少し違うね」
今のジャンの言葉は少し否定した。
「むしろ。あれは」
「あれは」
「怨みで。見えなくなっていたんだよ」
「怨みですか」
「そうさ、ヴァロア家の怨み」
それだったと言うのだ。全ては彼女がヴァロア家の者であったばかりにであった。
「それのせいだったんだ」
「ヴァロア家の怨みですか」
「怨みはね、何も生み出さないよ」
語るダルタニャンの声が悲しげなものになっていた。
「本当にね。何もかも」
「ええ、それはわかりますよ」
主の言葉に納得した顔で頷くジャンだった。
「そういう人間も結構いますしね」
「あの方もそうだったんだ」
また言うダルタニャンだった。
「あの方はそうは思っておられなかったけれど」
「そうだったんですか」
「今の王様達がフランスの為になるのなら」
やはり上を見上げ続けていた。
「僕はね」
「御主人様は?」
「喜んでこの命を捧げるよ」
本心からの言
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