第33話 Goodspeed of the East 1
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彼女はキャシー・ロックハートといい、ここの三年生に属していると言った。正直に言えば、彼女からはこれまでにあった三年生とは違い、なんと言うかオーラというものが無かった。
「あはは、先輩にもよく言われます。覇気が足りないって」
「あ、気を悪くしたのなら……」
「いえ、自分でもそう思ってるんです。少し前にあった事件でそれを思い知らされて……色々と悟ってしまったんです」
何があったんですか、とは聞けなかった。ついさっき会ったばかりの人にそこまで踏み込むことはできない。
「それに、他になりたいものがあるんです」
「へぇ、そうなんですか。それって…」
「あ、えっと…………せつかに……」
「え?」
聞こえなくて思わず聞き返してしまった。
「小説家になりたいんです!」
カズトが乗り出して聴いていると、キャシーが大声で言ってくる。その目は真剣そのもので、冗談などではないことがよく分かる。
ーこの人には、自分の夢があるんだ……
それが、何よりも羨ましかった。
「すごいですね……自分があつて……」
「え?」
カズトの台詞が以外だったのか、キャシーは惚けたような表情をした。今まで誰からも、親ですらも肯定しなかった自分の夢を、初めて肯定してくれたからだ。
「俺には、何にもありませんから……」
「…………!」
自嘲気味に笑うカズトを見て、キャシーはかつての自分を重ねた。その姿は、儚く、寂しげで、どこか、惹かれた。
「あ、あの……」
キャシーがそうたずねようとした時だ。二人のポケットに入っていた携帯端末が振動した。どうやら時間が来てしまったらしい
「それじゃ、そろそろ自分は行きますね。ありがとうございました」
カズトは一礼してもと来た道を歩いていった。その後ろ姿に、キャシーは問いかけた。
「あ、あの!」
「はい?」
「貴方の、お名前は?」
一瞬の沈黙。その時のキャシーには、それがとても長く感じた。
そして、ニッコリと微笑んで端的に答えた。
「アオイ・カズトです。まて会う機会があれば、どうぞよろしく」
そう言って今度こそ歩いていった。
「アオイ……カズト……」
キャシーは、反芻するようにカズトの名前を呟いた。たった数分話すだけで、彼のことが頭から離れなくなっていることに、彼女はまだ気がついていない。
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