流転
異端審問官との決別W
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「起きて…」
暗黒に染められた私の視界の中、聞こえたのは女性の声だった。
「早く起きなさい……」
声の主は誰なのだろうか。
それはアーシェのものとは違う、私の知り得ぬ声。
声の主は誰なのか、ゆっくりと目蓋を開く。
まばゆい陽射しにに目がくらみ、女性の顔がぼやける。
「またこんなところで寝て…風邪をひくわよ」
陽射しに目が慣れ始めると、その姿が徐々に露になってゆく。
光を反射し美しく風に靡く、長くさらりと伸びた黒い長髪。
落ち着き大人びた言葉使いとは反対に、その顔は幼く蒼い…まるでサファイアのようなその美しい瞳に心が奪われそうになる。
この感覚はいつか体験した。
そう、アーシェと初めて出会ったあの日と同じ感覚だ。
「やっと起きたわね」
上体を起こし周囲を見渡すと、そこに広がっていたのは小さな村。
ここは何処だ―――。
状況が理解できず、ぽつりと疑問の言葉がこぼれる。
女性…いや、少女はそんな私を不思議そうに見つめくすりと微笑みを浮かべた。
「何を言っているの、私達の集落じゃない」
私達?
そんなはずはなかった。
目の前の少女もこの場所も、私の知らないもの。
いまだ状況を理解できぬ私を見て、少女の微笑みは消え心配するかのような表情へと変わる。
「本当にどうしたの?記憶喪失…ではないわよね?」
少女は私の頬に優しく手を触れ、目と鼻の先までその顔を寄せた。
その行為に、一瞬私の胸が高鳴る。
私より歳が十は離れているであろう少女にだ。
何を考えているのだ、と私は自分を戒め少女の手を離そうと掴む。
その瞬間だった。
私は、その掴んだ私の手に驚愕した。
そんな馬鹿な―――。
その手は自分のものでもあのホムンクルスのものでもない女性の手。
儀式は失敗してしまったのだろうか。
いや、そもそもヴラドが初めからそう仕組んでいた事なのか。
混乱する私に追い討ちをかけたのは、少女の一言だった。
「顔色が悪いわ大丈夫、アーシェ?」
アーシェ…だと―――。
耳を疑った。
私の魂はアーシェへと移ってしまったということなのか。
その瞬間、強烈な頭痛が襲う。
いままで受けたことのない、耐えがたいほどの痛み。
私は頭を抱え、地面へと這いつくばる。
再びぼやける視界。
遠退く意識のなか、少女が何かを叫んでいるが、この痛みの最中では何をいっているかなどわかるはずもなく。
そのまま、視界は再び暗転した。
やがて、痛みは徐々に和らぎ薄く開いた目蓋に再び光が刺す。
目を開くと、そこは見知った天井。
ヴラドの城だ。
「ふむ、なんとか成功した
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