異端審問官との決別V
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奇妙に揺らめくヴラドの触手。
好きに斬りかかってこいと言わんばかりにヴラドは腕を組み、余裕の表情を浮かべている。
「どうした。そうしているうちに儂が自然と倒せるとでも思っているのか?」
その様なことを思う筈もなく、しかし彼の挑発に乗る気もない。
絶対的な物量。
まともに相手をしたところで結果は目に見えている。
そう、まともに相手をしたならば。
私は駆け出した。
ヴラドへと向かい真っ直ぐと。
「ほう」
私の動きに反応し一斉に攻撃を開始する触手。
無駄に相手をする必要はない。
剣を一振り二振り。
危険な一撃のみ切り払い、他は避け、ただヴラドへと突き進む。
そう、あくまでも触手は彼の魔術。
全てを殲滅する必要などないのだ。
狙うは、ヴラドただ一人。
「死地は越えてきているようだ」
ついに、ヴラドへと刃の届く位置へと詰め寄る。
振り下ろす斬撃。
だが、目前まで刃が迫ろうと彼は余裕の表情のまま笑みを止めない。
「だが、遅い」
重く鈍い衝撃と腕のしびれ。
剣は側面よりの触手の一撃で吹き飛ばされ床を滑って行く。
「人の限界だ」
ブラドの手のひらが腹部に押し当てられたかと思ったと同時に、私の身体は一気に彼から遠ざかる。
何が起きたのか理解できなかった。
彼は再び腕を組み、私へと余裕の笑みを見せている。
「経験、小細工、意思。その様なものが通じるのはあくまでも主と同格の存在にのみだ」
ヴラドの言葉と共に消え去る触手。
代わりに、彼の背後に漆黒の翼が現れる。
「圧倒的な力を前に人は無力。いかに優れた知識も剣術も等しく無価値」
ばさりと翼が羽ばたかれると、無数の羽毛が宙へと舞う。
「ヴラド=ツェペシュと儂を呼ぶものがいる」
両腕を広げるヴラド。
「しかし、それは儂の名前ではない。ツェペシュ…それは串刺し公」
ヴラドの腕に従うかのように、一斉に羽毛は私へとその照準を定めた。
「なぜ、そう呼ばれるか…その身をもって教えてやろう」
羽毛がそれぞれ一本の槍へと形を変え、私へと一直線に襲いかかる。
紙一重、それらを避けるもそれでは終わらない。
狙いを外した槍は私を追撃し避けた先へと次々と追撃を行う。
まずい―――。
避けきれるはずもなかった。
彼のいう通りだ。
人間には限界がある。
全てを常に正確に、判断できる能力は持ち合わせていない。
しかし、それが異端者との戦いでは命取りになるのだ。
そう実感したのは、私の脇腹と腕を槍が貫き、吹き飛ばされた右腕を目にした瞬間だった。
ぐっ―――。
想像を絶する痛み。
ぼとりと床
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